会議は何をするところ?ー「決定」するところ

日本企業の生産性の低さがニュースに取りざたされる昨今、その要因の一つとささやかれているのが「会議」です。「長い・決まらない・広がらない」会議に、誰もが参加して辟易してしまった経験があるのではないでしょうか。そして次の会議にも同じことが繰り返され、終わらない会議沼地にズブズブとはまってしまうのです…。

 
書店のビジネス書コーナーを訪れるとたくさんの「会議」に関する書籍が並んでいるので、どれか1冊手にとってみて下さい。乱暴に会議の事前準備を要約すると、
  • 前回の振り返り
  • 共有することを決める
  • 決定することを決める
  • 調整することを決める
が挙げられます。
 
そして、このリスト(議事次第)をもとに当日の会議を進行し、
  • 決定事項(誰による裁量で)
  • 懸念事項&宿題事項(誰が、いつまでに)
  • 次回の打ち合わせ日程の決定
を板書や議事録で抑えていきます。つまり、会議でもっとも大事なことは「決定」をすることなんです。決まったことを「決定」するだけではなく、決まっていないことが何かを「決定」する。次にやることを「決定」するのです。
会議における「決定」という機会に関して、私は留学中に最も衝撃を受けたことがあります。それは、「会議で作業はしないで(させないで)。会議は決定をする場よ。」と同級生に言われたことです。ブレインストーミングなど手を動かしながら作業を行う場合は「ワークショップ」をやると伝えるし、議論が必要なら「ディスカッション」をやると伝える。ただ会って話をするなら「アポイントメント」だと、彼らは主張していたんです。
 
話を戻しますが、順を追って会議を進行できれば良いのですが、話の途中で進行を遮って質問や否定をする人が出てくる。そんな頭を抱えてしまうこともあるでしょう。そして、連想ゲームよろしく、議事次第の外側へ話題いくこともありますが、会議が「決定」する場だという認識が薄いからかもしれません。
 
参加者と物事を決定をする「合意形成」の場において、脱線を防ぐためにゴール目標の決定事項を確認するだけでなく、いくつかの予防線を張りましょう。
一般的なものには、
  • タイムテーブルを確認する
  • 時計を目の届くところに置く
  • 話を遮るツールを用意する
などがあります。タイムテーブルの確認は、厳しくしすぎると「決めさせられた感」が生まれてしまうので柔軟に対応しつつ、むしろ、時計やタイマーを設置することで自発的に話を戻せるようなしかけを導入しましょう。また、人数の多い会議で話が発展しすぎたときのために、大きく手を叩いたりホイッスルを鳴らすことで注目を進行に集めることも有効です。
 
最近、合意形成を図るさまざまな場で「ファシリテーター」と呼ばれる人が活躍しています。主にワークショップと呼ばれる場で、アイデア創出を手伝っている人だという認識をされているかもしれません。しかし、ファシリテーション技法には、たくさんのアイデア発散させることだけではなく、さまざまなアイデアをカタチや言葉に置き換える(=決定していく)、収束していく力もあります*1。つまり、ファシリテーション技法は会議のような「決定」を図っていく場でも大きな力となるのです。
 
つまり、会議を決定する場にするためには、
  • 下準備をすること(決定する環境を設計すること)
  • 進行をすること(ファシリテーションをすること)
  • 記録をすること(カタチや言葉に置き換えること)
  • 共有すること(まとめて分かち合うこと)
が大事だと言えます。決まらなかったことを「決定」することは、能力不足や準備不足だと恥じることはありませんし、ダラダラと決定を先延ばしすることもありません。次回までにどうすれば決定事項として「決定」できるのか、誰が何をすればよいのかを考えることが大切です。 
 
関連書籍

誰のものでもある場所を見つけに-裏輪呑み@京都

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先日、京都 木屋町周辺で開催された『裏輪呑み』に参加してきた。入れ替わり立ち替わり総勢20名超が参加した野外飲み会と片付けるにはもったいない経験だったので記録しておこうと思う。
そもそも『裏輪呑み』とは、「新しい骨董」のメンバーらが「浦和」で100均のマグネットつきの棚を「裏返して」野外で呑み始めたことから始まる。

マグネットがつく素材であればどこでもバーになるこの方法。幸いにも街中のいたるところでスチールを使ったなにがしかがある。分電盤?やシャッター、工事中の壁面などに寄生し、即席的にオープンテラスのような場を作り上げることができるのが魅力の一つだ。鉄の壁面やポールを街中で積極的に探す経験を大人になった今、持ち合わせている人は少ないだろう。例外なく私たちもその1人で、「あそこにシャッターがあったよね。」「あの看板はいけそうじゃない。」「だめだ、これはアルミだ。」なんて会話をしながらぞろぞろと街中を探検していた。

日本の社会では公道を占有したり、私的利用することは法律や条令などで基本的には認められておらず、すぐに移動すること (あるいは、咎められたらすぐに逃げ出すこと)が必要なため、地に根ざさないジプシーのような呑んべえ集団である。ましてや、私有地に無断で入ることや器物破損することは許されない。こうして、他者の目から逃れるように、あるいは、注目を浴びることを楽しみながら、次の空き地を目指して20分程度したら片付けては移動を繰り返した。

移動と設置と撤収を繰り返す中で、4つの空間構成パターンを見出すことができた。
①壁面型
工事現場の壁面やシャッターなど一面にずらっと並べる方式。カウンターのようになったり、棚のようになったり。人はその壁に沿うように配置し、人が増えると膨らむように寄生していく。

②櫓〈ヤグラ〉型
A看板にセットするとその周囲をぐるりと囲むように参加者は並び、中心性が生まれる。人が増えると円が増えたり、大きくなったり。明らかに人だかりができるので、1番周囲の視線を集めていた。

③ポール型
電柱や手すりなど垂直方向に伸びる形式。櫓型に比べると向こう側が見えないので、ちょっとした切断が発生する。人数が増えてくるとこの形式で2,3人の集まりができてる場面もあった。

④周囲型
花壇など街中に周囲をゆるく囲み、侵入者を拒む小さな公共空間が存在している。あっという間に侵入を許し、ほとんど機能していない柵や手すりなどにセットする。適度な人数の滞在を迎えてくれるような感じ。中央にはカバンなどが置かれる。

***

このように4つの形式をなんとなく実施できる場所がないか街を眺めていると、イアン・ボーデンが「スケートボーディング、空間、都市ー身体と建築(新曜社)」でスケーターやパルクールなどが都市を地形的に読み替えて都市に介入する試みをしていると指摘したように、裏輪呑みもまた、都市に乱立するビルの植生図に「誰のものでもない空間」を書き加えていくことと言えるだろうか。あるいは、ブラッドリー・L・ギャレットの「「立ち入り禁止」をいく(青土社)」で都市探検家たちが『立ち入り禁止区域を、規制や保証のない完全自己責任の領域とと捉え、都市探検とは権力によって隠蔽された横たわる空間を民主化する活動だ』だと捉えていたように、裏輪呑みもまた、「誰のものでもない公共空間」に対して、「誰のものでもある公共空間」であることを示す活動として捉えられるかもしれない。
そのため裏輪呑みとは、権利的に認められたオープンテラスやベンチで飲食することや花見などでどんちゃん騒ぎをすることとは一線を画す。なぜならそこは政治的に参加を許された領域であり、主体的な利用と民主的な意義は見出せないからだ。

裏輪呑みにおける楽しみの一つに「誰のものでもない場所」を「誰のものでもある場所」に取り戻すことが挙げられるたろう。実際に前者では、私たちが招かざる(騒がしい)ものとしてその場を活用することから排除されてしまうこともあったし、後者では、どこからともなく現れた参加者(ただの酔っ払い)を迎え入れるようにも機能する。
私たちは裏輪呑みを通して、都市の幸を100均やコンビニなどからもぎ取り(購入し)、誰のものでもない、誰でも使える空間を見出し、都市に生活を染み出させることを楽しんだ。開発や計画といった権力から自分の居場所を見出す試みとして、裏輪呑みは非常に興味深い都市活用事例となるだろう。

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30年後から考える伝統工芸

2045年、少子高齢化の進んだ日本国は、細やかな気遣いと地域間の分業によって築き上げた輝かしい時代の産業から遠くの世界に届いていた。これまで1から10の段階を経て仕上げたものを製品と呼んでいたものづくりから、1から6で戦略的に途中でやめるものづくりにシフトしていった。残りの7から10は消費者やクリエイターに委ねられ、生産のシェアが実践されている。全体的な生産人口の減少に伴い、幼少期から生産教育が科目に加わり、図画工作や技術家庭科の授業時間が30年前より圧倒的に増えている。

生産する消費者として活動する人々(プロシューマー)の割合は先進国でもトップクラスとなり、メーカーはこぞってプロダクトアウトからマテリアルアウトへと体制を変更した。ホームセンターよろしくファストファッションブランドはそのカスタマイズ性を売りにし、衣服の部材やらしきものを取り扱っている。このマテリアルシフトの中で特に顕著なのが、かつてBtoBしか行って来なかったメーカーがBtoCに踏み切ったことだろう。この時代に製品として取り扱われているものにおいて、21世紀初頭のプロダクトとマテリアルほど差異がなくなってきていることにある。

そのため、かつては地方の手工業であった伝統工芸の再興が著しい。産業の中でブラックボックス化されていた製造や加工がオープンになり、作り手であり使い手でもあるプロシューマーたちは再び産地付近で生活をするようになった。伝統工芸の職人は相変わらず後継者不足で、問題は解決の糸口をつかめていないが、その年齢や能力でできるなかで生産し続けられるようになったことが大きい。

1から6の段階でユーザーの元へマテリアルが届くようになると、4から10にすることを手助けするようデザイナーの役割も変化していった。最終製品の展開可能性を示すとともに、マテリアルとなる前次元の素材メタ・マテリアルの開発から関わらなければならなくなった。このときに最も作り手と近い距離で製造、対話、試作を行える伝統工芸の世界は重要な領域のひとつとなった。私たち自身が生産に加わる、民主化された生産が伝統工芸のなかで達成されたことで、次の社会のものづくりの可能性が見えてきたようだ。大きな力ではなく小さな力を駆使して生まれる製造の進化を私たちは再び追いかけたい

参考動画

オープンスタジオを終えて

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個人事業主として登録してから5月で丸2年となる。その節目に先駆けて2016年4月17日に借りてから半年以上経った有松の事務所でようやく事務所開きをすることができた。一緒に事務所を借りるグラフィックデザイナーの武村彩加さんと我々も活動するARIMATSU PORTAL; PROJECTのメンバーである建築家の松田孝平くんとともに。

今回は展示に向けてコンセプトは立てなかった。今生で動いている状況を提示しつつ、この場所で何かが起きそうな予感を共有したかったからかもしれない。武村さんはさすがに僕よりも早くフリーとしての活動を始めていることもあり、すごい仕事量だった。卒業後はパッケージから始まり、イラストも自分で描き、今ではエディトリアルまで展開している。思い起こせばAPPでのフリーペーパーで武村さんがエディトリアルデザイン、僕が編集構成をして配布していたところ次のフリーペーパーを呼び、さらにそれが別の仕事につながって今も継続していることはとても嬉しい。

僕自身もわずか2年ばかりの間にあっち行ったりこっち行ったりする脳みそを整理するにはとてもいい機会となった。〈YOSANO OPEN TEXTILE PROJECT〉〈GoodJob! プロジェクト〉〈障害者福祉施設×菓子製造販売事業〉などで製作したプロトタイプやリサーチツールなどを出しつつ、research through/ into/ for designを分類した。そこで見えてきたことはやはり歴史や文献からたどるintoの領域、つまり、執筆や研究を割くことができていないことだろう。今年はもう少し活動について活字で残すことを考えていきたい。

友人知人恩人だけではなく、街の人もふらりと入ってきてくれたこともあり、想定よりも多いおおよそ50名程度の来場となった。末文ながら有松まではるばる足を運んでくださった皆さんにお礼を申し上げます。今年は拠点を整備したので、有松から発信していくことを意識していきたい。名古屋におこしの際は是非お声がけください。

メタデザイン: 対話のためのアイデアワークショップ

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原研哉藤村龍至は予てから、デザインをデザインすることにより、これまでに見られなかった共創や創発といった他者性の獲得を目指したデザイン言語を目指してきた。学術的な領域では『デザインを支援する環境をデザインすること』を「メタデザイン」と指し、昨今のデザインリサーチャーやファシリテーターと呼ばれる職能の一つとしている。メタデザインでは、ワークショップよ成果物として生成されるスケッチやプロトタイプを重視するのではなく、スケッチやプロトタイプの背景や生まれたものを通してデザインが乗るシナリオを再考することに目的を見出している。

先日、有松の染工場にてヨーロッパからテキスタイルデザイナーを招き入れたアイデア・ワークショップを行った。ゲストに地元で絞り染色に従事するクリエイターを2名に声をかけ、テキスタイルやアパレル、プロダクトや建築などに関わる学生と社会人8名程度が参加するものだ。スーパーバイザーとして欧州のデザイナーと染工場の社長を置き、14時から17時までにたくさんのアイデアを出すものだ。
プログラムはおよそ3部構成となり、アイデア出しとグルーピングを2回行い、最後にプレゼンテーション。初回のアイデア出しは体験や記憶をキーワードとして記述し、二回目はゲストクリエイターがピックアップしたキーワードに具体的なイメージを与えていくもの。そして、そのイメージの総和が何を指しているのか、改めてグルーピングして、プレゼンテーションを行う。最終的には二つのグループから「小人のような視点」で「包まれた感覚」を感じさせるアイデアや「ポータブル」で「ライフログ」を生かす媒介としてのアイデアが出された。

さて、今更ながらこのワークショップの目的を記したい。とあるプロジェクトにより、国外のデザイナーと話を進めるにあたり、オンラインでのやり取りでは互いの強みや興味を理解することは難しい。言語や文化だけでなく、生活習慣や価値観まで異なる場合がほとんどだ。そのため、今回のワークショップでは、「共有する価値観の表出」、「デザイナーが創造する過程・動機」、「職人とデザイナーの関わり方を模索」するために設計された。つまり、プレゼンテーションまでに記述されたキーワードやスケッチなどをテキスタイルデザイナーや絞染色職人がどう肯定するのか観察していたのだ。スーパーバイザーの2人には、「具体的な項目を挙げて賛同すること、共有することを教えてください」と伝え、プログラムの中に発言を促す場面を設けていた。

こうして得られた共有するキーワードをもとに、翌日の振り返りでは、「デザインのアイデア」を見出していく。なぜそのような共感をしたのか追加インタビューをしながら、デザイナーと職人の価値観を見えるようにし、対話を促す。今回のワークショップでは、日本人が日常的な驚きや発見をもとに創発していたことを欧州のデザイナーは驚いており、彼女自身の制作には「えも言われぬ感情」や「蓄積されてきた人生経験の爆発」が起因していることが発見できた。そのため、単なる「◯◯風なデザイン」と言った抽象的な発注にするのではなく、より具体的な体験を引き起こすデザインの発注になることが予想できる。このように「メタデザイン」によるワークショップとは、作風やイメージが先行した「置き換える」発注(浴衣地に洋風な柄をあてがうなど)ではなく、作家のインスピレーションを高め、互いが目指す価値観を共有する対話の機会となるだろう。