ウェアラブルカメラ Narrative Clip 2が届いた!【共有編】

これまでのあらすじ

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Narrative Clip 2(以下、NC2)を購入し、開封と撮影までは前回で行った。今回の記事ではNC2から写真・動画データをデスクトップに取り出し、さらにGoogle Photoによる共有までを紹介したい。

Narrative Clipのデスクトップアプリの設定

Get started with Narrative Clip 2 - Activation
前回の撮影編では、ストレージとしてNC2を認識できないことを書いたが、調べていくうちに、NC2からデータをデスクトップに移動する公式アプリがあることがわかった。先のリンクより、ページ下部にあるアプリのダウンロードを行って欲しい。
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Macにアプリをインストールし、ログインを済ませると、設定画面が表示される。
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チェック項目は2点だ。Clip Settingsタブから①Use Uploaderを Desktop(Mac) に変更、Storageタブから②Local Storage Enabledにチェックを入れる。これによってOSXであれば、Open Local Storage Folderを開けば、/User/Picture/Narrative Clip/[メールアドレス]/[NC2のID]/[年別フォルダ]が出てくる。
この設定が済むとNC2本体から画像が吸いだされ、フォルダに移動されてくる。300枚くらいが5分くらいだった。

Google Photoの設定

Google Photoのインストールは個々人で行ってもらうものとして、先のNarrative Clipアプリで設定したピクチャフォルダにアップした写真を自動でGoogle Photoにアップロードする用に設定してみよう。Google Photoのデスクトップアプリを立ち上げ、設定画面を開く。
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中段にある「デスクトップフォルダ」の下にある「追加」をクリックし、先のNCアプリで指定したフォルダを選択する。たったこれだけ。あとはネットに繋がってさえいれば、勝手にアプリがGoogle Photoにアップしてくれる。アニメーションを作ったり、アルバムを作って共有することが少しだけ簡単になる。

なぜGoogle Photoと連携するのか

Narrative Clipはウェブサービスと同期しており、最大8GBまでのフリースペースはあるが、それ以上は有料となっている。写真と動画を半日も回し、それを月に1、2度使えばあっという間に容量はオーバーしてしまう。さらにそれをブログやSNSで共有しようものなら、Narrativeにアップして、ダウンロードして、SNSにアップして…と手続きが煩わしい。そういう時にはこういうアプリ間の連携をしておくことができれば、多少の手間は省けるというものだ。
現時点では容量無制限でアップでき、メンバー間での共有が簡単にできるGoogle Photoに残念ながら軍配が上がるといえるだろう。よきライフログタイムを。

雑記 それにしても充電時の発熱量は少し心配になるなぁ…

プロの素人を目指して、デザインリサーチャーの役割

「はじめまして、デザインリサーチャーの浅野です。」という挨拶をするたびに、「デザインリサーチャーとは、何をする職業なのでしょうか。」という返事が来る。まだまだ日本には耳馴染みのない言葉であり、察しがいい人は「コンサルタント?ディレクター?」などと聞かれる場合もあるが、デザインや建築を職業とする人などからも同様の反応を得る。後述するがその答えは状況や工程によって変動するため、一言で回答するのはまだ難しいのだが、「モノやコトの起きる前からともに考える役割」だと伝える場合が多い。「モノやコトの起きる前からともに考える」ということは、もう少し説明を加えるとどういうことなのだろうか。

問う役割としてのデザインリサーチャー

ともに考える上で最も力を入れていること、それはクライアントに「問う」ことだ。職種を関係無く「問う」ことは業務の初期段階にほぼ置かれる工程だろう。一般的にこの工程でのインタビューやヒアリングでは、「何をするのか(WHAT)」を明確にする「要件定義」の準備段階と捉えれている。しかし、デザインリサーチャーにおける初期の「問う」段階では、「なぜ実行するのか(WHY)」という動機や目的といった文脈を明らかにすることに重きをおいている。
商品開発をしたいのはなぜか、まちづくりをしたいのはなぜか、ポスター・チラシをつくりたいのはなぜか。こうしたモノゴトの裏側にあるWHYは、クライアント(とそれを享受する人)が持つ文脈に依る。その文脈を蔑ろにした提案は、クライアントが提供するモノゴトを享受するユーザー、またその関係の裏に潜む利害関係者もまた不幸とさせてしまうかもしれない。

障害者福祉×伝統工芸における「なぜ」

例えばこんなケースがあった。障害を持った人が関われる伝統工芸の商品開発をしたいという相談。なぜと繰り返して問うていくと、福祉施設側は低い賃金の労働を受注することが多いことや働きがいを持って望む作業の受注をつくり出せていないことを課題として持っていた。つまり、ロットいくらという軽作業では作業量のばらつきが発生し、利用者のモチベーション維持やそのための準備などに多大な時間を割かなければいけないという事情があるのだ。そのため、伝統工工芸よる商品開発では能力に合わせた手仕事によって付加価値のある商品を開発していきたいということが見えてきた。
他方、制作支援を行う工場からは、商品開発のプロセスの中で後継者の獲得を目指したいという意見が出てきた。詳しく話を聞くと職人をひとり育て上げるコストと時間を捻出することが難しい生産体制が見えてくる。そのため、このプロジェクトでは、福祉施設の担当者と利用者を育てることで製造に寄与する人員を増やすことが目標のひとつに掲げられた。
「なぜか」と問い続けることで単なる商品開発ではなく、「手仕事による付加価値のある商品開発」と同時に「後継者育成の機会を生み出す商品開発」が共存していることが理解できるだろう。ここでの役割は商品のコンセプトやイメージを作り出すことではなく、問いを通して商品開発における理念や目的を「発見」することにある。
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「なぜ」から生まれたデザインを通したリサーチ

なぜを繰り返して得られた文脈の理解(発見)は、「予測=そうなるかも」と「洞察=そうなったらどうなるのか」の2種類で構成されている。前者のほうが可能性が高く実践的な発見で、後者のほうが可能性は低いが今までにない実験的な発見といえるかもしれない。障害者福祉×伝統工芸では、前者によるプロジェクト進行であったといえよう。それでは、後者の「そうなったらどうなるのか」というプロセスはどのようなものか。
丹後ちりめんなど和装生地の機織りを行う職人と行うYOSANO OPEN TEXTILE PROJECTは、和装を中心とした繊維産業が縮小する中で付加価値のある素材づくりが求められた。数回のフィールドワークやインタビュー調査の中で繊維産業特有の分業体制では、これまでのように1から10までの生産工程を継続していくことが難しくなっていくことが発見された。惜しみない手間と暇をかけていくうちに形式化された生産工程に対して問いを繰り返していく中で、「完成までの工程を戦略的に途中で辞めることで完成品となる素材の可能性」と「途中でやめることで完成した素材の展開可能性」が見えてきた。
ここでは製織したあとに実施される「精錬」作業をやめることでどのような価値が生まれるのか描くことにした。実際に精錬作業を行うと、繊維についたノリ(のようなもの)が落とされることで生地は縮み、厚みを増す。温度と液中pHを調整することで精錬がうまくできること、パターンによって縮み方に差異があることが見えてきた。そこで積極的に縮みやすい組織を考えようと職人に荒いパターンで製織してもらったり、生地が縮むことでユーザーがどのようにプロダクトをデザインすることができるのかを考えていった。
最終的には、組織をひっかくことでドレープを積極的に生み出したり、防縮することで形状記憶する素材の提案を行い、その素材を使った「ワンピースのようなもの」や「中敷きのようなもの」を一人のユーザーとして制作をした。1から6や1から8で完成したものをユーザー自身が10にするテキスタイルが受け入れられる社会では、縮むといった特徴を積極的に利用することでパーソナライズへの応用可能性が見出されたと言える。つまり、途中でやめる判断をした世界では、生産する消費者(プロシューマー)を巻き込みながら完成する素材として活用される、「洞察」=物語を描くことができた。
mtrl.net

プロの素人である子どもを目指して

2つの事例を通してクライアントにおける「なぜ」を問うデザインリサーチャーの役割について紹介をした。1つ目は文脈の理解から目的を「発見」すること、2つ目は「発見」された「洞察」から物語を描くことで課題と可能性を浮かび上がらせるものだ。両者のプロジェクトにおいても根底にある「なぜ」を問う役割とは、当事者が無意識の中に持つ概念を言語化することで他者と共有可能とすることにある。
子どもから「なんで子どもは生まれるの」という質問から数珠つなぎに質問を浴びせられることで生命の起源にまで話が及ぶように、デザインリサーチャーもまた「なぜ」を繰り返すことで本質的な文脈に触れようとする。また、得られた洞察から生まれたデザインによって描かれた物語に「なぜ」と問うことで課題と可能性の共有可能性を探っていく。
小さな疑問をひとつひとつ捉え、少しずつ編集し、カタチを与えていくことで共有可能なものを目指していくデザインリサーチャーという役割が目指すものは、まさに子どものように知らないことを恥も慢心もしない「プロの素人」だろう。

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ウェアラブルカメラ Narrative Clip 2 が届いた!【撮影編】

前回の記事で開封から初期設定を終わらせたNarrative Clip 2を持ちだしてさっそく撮影テストをしてきました。

前回の記事

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さっそくカメラを付けて歩いてみたよ

bit.ly
まずはこちらのリンク先をご覧いただこう。シャツの胸元にクリップで引っ掛け、30秒ごとのインターバル撮影、途中から10秒ごとのインターバル撮影をしています。写真の撮影中は音もしないため、本当に撮影出来ているのか心配でスマホで時々確認をしていましたが、5分ほどずっと歩いています。リンク先を診てもらうと分かるように、歩いて撮影している割に写真ほとんどブレがありませんね。

動画)実際に歩いています

bit.ly
実際に歩いている様子はこちらです。10秒間の動画撮影は本体を2回、ツンツンっとすると「ピコッ♪」というおとがして録画スタート。もう一度、効果音がすると撮影終了です。歩いているのですが映像酔いは少ないほうかもしれませんが、苦手な方はご注意を。なお、Narrative Clip 2は写真撮影に重きをおいているため動画はHDで撮影出来てもおまけ程度と思ったほうがよさそうです。

どうやって写真は共有されるの?

さて、オモテを歩いて事務所に戻ってきました。さっそくNarrativeアプリを開いてみましたが、まだ写真のアップロードがされていないようです。右上のアイコンをタップし、wi-fiが接続されていることを確認すると、徐々にファイルがサーバーにアップロードされていっているようです。この時点ではまだどのような写真がアップされているのかわかりません。パソコンに繋いでも、外部メディア扱いとならないNarrative Clip 2はwi-fi環境がないところでの使用感はあまりいいものにはならないかもしれませんが、wi-fiさえあ(って接続さえでき)れば、まったく問題無いです。インターネット速度にもよるでしょうが、僕の環境では2分くらいで200MBがアップされていました。

アップロードしないと使いにくいよ

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アップが完了するとようやくアプリやサービスで写真や動画を閲覧することができます。この時点ではまだ公開はされておらず、自分だけが見ることができるのでご安心を。動画やアルバムを選択することでダウンロードや公開設定をすることができますが、今のところ写真を1枚だけ公開することはできませ。アプリで他のユーザーがアップしている写真を眺めていてわかったのですが、Narrativeはやはり写真単体や動画を共有することが目的ではなく写真の連続を公開することが目的なようです。どういう時間の過ごし方をしているのか、移動をしているのかなどがかいま見えるのがinstagramFacebookとの違いだと思います。

縦長な写真が撮影されます

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実際に僕が撮影した画像を見て下さい(もちろん撮影したというよりは、「撮影されていた」という表現のほうが正しい気がしますが 笑)。今回の画像は全てタテが長いように撮影されています。これもスマートフォンで見ることを前提にしているからかもしれません。ですが、他のユーザーを見るとヨコが長いように撮影されている人もいたので、クリップの付け方を工夫すると横長の撮影ができるのかもしれません。パソコンで見たい時は横長のほうが良いなぁ。特にフィールドワークをあとから振り返るときは周辺も見たいので横長のほうが嬉しいかも。

リサーチツールとしてはどう使う!?

デザインリサーチで使うならば、毎日これをつけながら仕事などをしてもらい、データを確認してから追加インタビューなんかも考えられますね。スイッチがないので説明も簡単。「朝、ここにきたら胸元にこのクリップを付けて1週間過ごして下さい」などなど。ただし、トイレ中などプライベートな情報が記録される可能性があるのでそういう時は外してもらう必要があるので要注意かな。

Narrativeは連続する写真にある物語をつくるツール

繰り返しになりますがNarrative Clipはインターバル撮影を前提としたウェアラブルカメラです。付属機能的に動画撮影もできますが、Narrative Clip 2を使い倒しているうちには入らないのではないでしょうか。音声も入らないけれど、写真と写真の間にある物語 "narrative" を読むことができるのが特徴です。ライフログツールとしてGPSレコーダーを持ち歩く人がいるように、僕はNarrative Clip 2を持ち歩くクセをつけてみようと思いました。

他のユーザーのアップしている写真を見ながら、自分だったらこの時に使おうかなーと考えるのも楽しいですね。

ウェアラブルカメラ Narrative Clip 2が届いた!【開封の儀】

getnarrative.com

2015年5月22日から待つこと1年以上、ついに届いたウェアラブルカメラ Narrative Clip 2!胸ポケットなどに取り付けて日常を切り取ることができるカメラとしてプロダクト開発されているようです。僕自身はデザインリサーチをするときのツール兼ライフログカメラとして導入することを決めました。

パッケージも可愛いサイズ感のNarrative Clip 2

さて、さっそく開封の儀にとりかかります。
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パッケージのサイズは縦横高さともにおおよそ10cmくらいで、めちゃくちゃ軽い。内包物を守るようにアクリルのカバーが付いており、その中に待ちに待ったカメラが見えています。カラーはiPhoneと合わせて白色を選びました。

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カバーを外し、カメラの台座を取ると中から付属品やアクティベーションの方法が書かれた最低限の説明書が出てきました。

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同封物にはMicro USBコネクター、カラフルなカバーシールが3種類、交換用のピンです。カバーシールがカラフルなのは盗撮と思われるのを防ぐためでしょうか?

手のひらに収まるコンパクトさ

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手のひらと比べたら分かるように縦横は3cm x 3cmくらい。めちゃくちゃ軽いので着けていること、取り外したことを忘れてしまいそうなくらい。

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側面から見るとわかるように厚さがあります。おおよそ2cmくらいで装着すれば気になりませんが、ボディに角度が振られていないので真っ直ぐ撮れるのか少し心配です。もしかしたら下のほうが取られやすいのかも。。これは後ほどの撮影テストで明らかに。

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ボディをひっくり返すと黒色のボディが見えます。ピンはステンレスで、付属のピンと比べるとこちらのほうがカーブが浅いようです。

スペックはこちら

カメラセンサー:8MP / 1080p Video
絞り:f/2.2
画角:86°
書き出しデータフォーマット:JPEG / MP4
解像度:3264x2448 (4:3)
重さ:19 grams / 0.67 oz
メモリ:8GB
GPS設定:対応

標準設定では30秒ごとに写真のインターバル撮影、動画の場合は10秒間の連続撮影となっています。もちろんアプリで設定可能なので、アクティベーションへ移行しましょう!

アクティベーションスマホから

説明書にもあるようにアクティベーションスマホから行います。

  1. まずはスマートフォンから Narrative アプリをインストール
  2. その間にUSBケーブルをPCに接続して充電しましょう
  3. 側面の照明がピコピコし始めたら開始の合図、アプリを立ち上げる
  4. あとはアプリの説明にあわせて登録、設定すればOK Bluetoothを入にして行いましょう
  5. 自宅のwi-fiを登録するとデータの転送が楽ですよ

Narrative Serviceでデータの共有をさくっとやろう

Narrative
10GBまでデータのアップロードが可能なサービスに、アクティベーションと同時に加入することになります。

さて、どれだけのデータ圧迫量となるのでしょうか。使い方次第でどうにかなるのか、僕もまだわかりません。次の【撮影編】をお待ち下さい。

追記 撮影編公開

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街へ関わるきっかけを探る「ごえんの投票」

https://www.instagram.com/p/BGKFYI5qeww/
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「多数決を取ります」なんていうフレーズを最後に聞いたのはいつごろだろうか。社会に出てからは30人程度が参加した会議で多数決による決定というタイミングはほとんどない。そこには意思決定者である社長や代表がおり、その人の判断に委ねられるため提案と調整で進行していくからだ。100人が反対しようが経営判断で実行に至ることもあれば、その反対もまた然り。その結果によっては意思決定者の首がすげ替えられることもザラだ。

社会に出てから私が最も身近な「多数決」は選挙だろう。(家族間や友人間での多数決は人数が少ないので割愛する)。大きな声で繰り返し叫ばれた名前と政治家としての良し悪しなど分かるはずもないのだが、なんとなく良さ気な人を選んで名前を記入して紙を箱に入れる。年々下がりつつある投票率は置いておいて、関節民主主義を掲げる我が国では、なんとなくの票と思いのこもった票と無関心な表にはならない意思表示が入り乱れる。「清き一票を!」という叫び声に対して、「この一票がなにかを変えることはないだろう」という半ば諦めムードが漂うのだが、他にやることもないなと投票しないのもバツが悪いかなと投票所へ向かうのだ。

1票を投じることに虚しさを感じてしまうのは開票速報を見ている時だろうか。私自身はアルゴリズムで判明した思想が似ている政治家に投票することにしているのだけど、その人の顔も経歴もわからないけれど1票の行方を少しだけ気にしてテレビを見ている。そしてまったく別の名前の人が当選したところで「まあ、そんなもんか」と切り替えて当選した政治家の行方も大して追わず、選挙でわずかばかりうるさかった非日常から少しだけ静かになった日常にまた戻っていく。

このように不特定多数の利害関係者同士による政治的な意思表示として選挙はほとんど機能していない。首がすげ替えられても代わり映えしない状況という雰囲気はただカウントされるボタンを1度押しているだけにすぎないと感じてしまうからだ。なんとなく1を押す回数が多いボタンのカウンタは多く回り、ボタンを押す私たちは結果や過程に介入することはできない仕組みとなっている。なんとなく辛いてなんとなく楽しい日常を、少しだけ楽でもう少しだけ楽しくするために、どうしたら私たちはボタンを押すことができるのだろうか。


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そんなことを考えながらARIMATSU PORTAL; PROJECTで制作したのがこの「ごえんの投票」だ。この投票箱は地域のお祭が開催されている期間中に、通りに面して設置され、まつりの来場者や地域の住民によって投票が行われた。項目は非常にシンプルだ。「わたしが有松でしたいことは」に対して、「暮らすこと」「働くこと」「紹介すること」「遊ぶこと」という4つ項目のいずれかに投じてもらう。投票に参加することで意思表示がまちの方向性を方向づける(ほどのちからはもちろんないのだが)きっかけになるかもしれない。また、この投票箱はお祭りが終わった後も継続して1週間程度設置され続ける。投票結果を見る人たちは、有松という地域に対する期待と自分たちの日常にどのような折り合いをつけていくことができるのか判断しなければいけないことが突き付けられる。問うことで問われる構造を持ったこの装置は、観光戦略を掲げる行政に対する不満を解決することは不可能で、市民対市民の利害関係の調整が必要であるということを露わにする。その時に、エリア内外の市民たちはどのような意思表示をするのか、この結果はどのような行動を引き起こすことに繋がるのかを考える小さな社会実験だ。

この掲示板を貼った背景のひとつには、有松というエリアが重要伝統的建造物群保存地区として選出された*1ことがある。かつて産業地帯だった有松が今では観光都市として転換を迫られている。諸手を上げて喜んでいる人もいれば、このエリアで日常を過ごしていた人からは不満の声も少なくない。また、有松がある緑区名古屋市においてベッドタウンで現在も人工が増え続けているエリアで、日常を過ごす人がとても多い。そうした中で非日常的な観光都市化を市民らが本当に迎えられるのかは未だ判断がつかない。

さて、実際に2日間に設置していたところ、投票数だけを見れば「遊ぶこと>暮らすこと>紹介すること>働くこと」の順番となった。お祭りだったのでなんとなく想像通りだろうか。一方で僕はこれだけ遊びたいというニーズがありながら、遊ぶ場所は現在の有松に多くないなかで働きたいという意思を持つ人がこれほどいたことに驚いた。需要と供給のバランスを考えるとビジネスチャンスはあるのだろう。
さて、このような結果となったのだが街で暮らす人々はどのような判断をするだろう。高齢化によって暮らしにくくなった古民家を次の住民や事業者に貸すことなどはできるのだろうか。あるいはこのニーズに応えるサービスを提供する事業者はでてくるのだろうか。あるいは愛着が高まり手放すことを考え直すだろうか。今年の秋には重伝建に選ばれたことで式典も予定されていると聞くこの有松で、どのような意思表示をする人々が出てくるのだろうか。この小さな実験が意思決定にどのように作用するのか、主体的に街へ関わることを選択する人が出てくるのだとしたら楽しみでならない。

https://www.instagram.com/p/BGUQZffKey6/
並べ直したらこれくらいの量