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可動する建築空間の試作から空間利用の多様性と多層性について考えてみた。


[学内で行われている展示会場、撮影:岡部太郎]
 今年の春から助成金を受け、新しい膜を使った空間について考えている。震災の影響から、構造的な部分だけでなく、軽く柔らかい膜素材が新しい天井材や装飾材としての魅力が再評価されてつつある。私たちはその中でも"柔らかさ"と素材の"改変可能性"に着目し、新しい動く空間への試みを行っている。柔らかさから形を変え、膜素材に新たな印刷を施すことで装飾的にも、設備的にも新しい利用シーンが生まれるのではないか。
 そこで、新しい環境、行為を助長する装置としての提案を試みている。建築計画学の研究室、特にワークプレイスの研究に熱心な研究室に所属しているためか、人の行為に対して環境がどうアプローチできるのかに興味がある。例えば、人が集まってきた空間に対して囲まれた空間が生まれたり、侵入禁止区域を暗に示すような装置として、ルート表示をする装置としてなどといった、人の行為と相まった空間の使われ方をできないだろうか。
 動く建築に対する欲求や提案はたくさんあるが、多くのものが小さなモジュール化したユニットが動き、そのカタチを変えるものが多いように思う。テンセグリティなどは部分的な構造材にかかる力を変えるだけで収縮、拡張する性質を持つ。また変形の変数として多いのが環境である。温熱光環境をセンサリングし、機械的に可動、変形し、それらを制御する。MITを中心に、こうした可動空間に対するアプローチは多数存在しており、デジタルファブリケーションの一般化や電子部品の小型化、高性能化、低価格から研究に参加しやすくなったのが大きい。私たちもその恩恵をうけている。
 情報の世界では、Googleメガネ*1のように拡張現実(AR)、情報空間が物理空間と相まった環境を作り出そうとしている。最近では、人の行為や欲望に対して敏感であり、お互いの情報をやり取りしながら最も繋がりが高いものを表示しているように思う。また、プロジェクションマッピングのように、実際はそこに存在しないにも関わらず認知的に存在し、改変しているように感じさせる手法もある。
 当たり前の話だが、機能と空間が一対一で固定化された、機能に従った空間を利用しているのではなく、その時々の欲求に従って空間を利用している。標準化された空間(機能がラベリングされた)と機能の関係を乗り越えて、日本の和室のように状況に応じて可変的な空間が改めて見直されているのではないだろうか。多様なアクティビティの許容と、様々な人種、世代、性別、文化が多層する社会空間の許容ができる必要が求められる。それはミース・ファン・デル・ローエのユニヴァーサル・スペースしかり、最近の建築家があえて室名に名前を付けないことにも繋がるのではないかと考える。多様なアクティビティを許容する都市を参照し、多層させたクリストファー・アレグザンダーのパタンランゲージ手法とも一致する。一方で、そうした理念は広く共感を呼び伝わったが実行しがたかったために実装はほとんどされていない。結局、アーキテクトはそのフレームワークを規定しなければいけないというジレンマを抱えてそれを乗り越えることが出来なかった。そして、現在、それらを乗り越えようとしているのが、エンジニアである。
 空間を規定するアーキテクトと改変を許容するシステムを構築する職能として、エンジニア的デザイナーの存在が求められているのではないか。空間と行為がお互い寄り添う環境を構築していくためにこうしたあり方が求められているように思える。多様な利用からも分かるように、一般化した行為だけから規定される状況ではなくなってきており、むしろ、それらが対等に存在しうる多層的な空間を構築していくためにこうしたプロジェクトを進めていくことがより求められていくのではないだろうか。

[稼働する天井のプロトタイピング、撮影:筆者]

*1:[http://www.youtube.com/watch?v=9c6W4CCU9M4:movie:small]
2012/5に発表されたGoogleのARプロジェクト。GUIと音声により生活と密着したユビキタス社会を描く。