というわけでヘルシンキまで来たわけだが


[Cafe Aalto]
 実はこの秋から1年間、Aalto University, School of Design, International Design Business Managementというコースへ交換留学することにしました。大学の交換留学です。なんで日本では建築系研究室に所属していた僕が"工業デザイン"なのか、そしてアアルト大学なのかを簡単に説明いたします。
 留学を決めたのは今年の4月です。が、ふつふつと去年一年間で留学の思いが募っていました。『仕組みまで捉えた包括的なデザイン教育をプロジェクトベースで受けたい。』これが留学を決意に至った理由です。それは、インクルーシブデザインに初めて触れ実践してみたことに大きく起因しています。これまで知らなかったデザインのプロセスやそのターゲットを広く設定するところ、そしてデザインという思考法を生かし課題を見つけ提案していくことがこれまでにない刺激でした。311以降、国内でもstudio-Lを中心としたコミュニティデザインが盛り上がり、ブランでディング、まちづくりとモノをデザインする以上のデザインをすることの重要性を改めて感じていました。
 さらに、欧州を中心に人間中心設計をさらに発展させ、サービスないしプロダクトがユーザーにきちんとタッチするまでを描いた『サービスデザイン』というプロセスが開発されており、デザイン教育にも強く影響を与えています。これはリサーチ・デザイン・マネジメントを包括的に進めていくために求められている分野です。11年の暮れに『This is Service Design Thinking』という書籍が発売され、ようやくその手法と理念が実現可能なレベルで共有されつつあります。国内ではwebサービスやインタラクションデザイン領域でサービスデザインのプロジェクトを教えているところがあるようです。そうした仕組みをデザインすることは大企業が新しいプロダクトを作る上で実践されてるのは言わずもがな、特に現在進行形で90%人のためのデザインとして世界中で行われています。TEDでも発表されていましたが、発展途上国で経済の仕組みを作るとともに衛生環境を改善するプロダクトを作り出したIDEOなどがその最たる例です。
 そうした事例を日本で学ぶにはあまりにも環境が整っているとは言いにくい現状があります。東京大学i.schoolのようにイノベーションベースでやっているところはありますが、仕組みを変えていこうとしているところは伝わってきますが、デザインの拡張というよりは『社会起業』の拡張に捉えてしまいます。そこには、デザインの『美しさ』ありきでデザインの拡張を語っているかが問題ではないか思います。先に出した国内外の事例でも、美しいことを当たり前に、これまで実現しなかった経済状況を生み出していたり、環境改善に繋がっていたりする、これこそがサービスデザインやインクルーシブデザインを『新しい』領域として捉えるための重要な要素に感じます。ただし、その『美しさ』は課題の持つコンテクストによって違うでしょうし、デザイナーの腕に寄るところは大きいと思います。だからこそ、そのデザイン力とその伝わる先を見越した提案につながる洞察力を鍛えていきたい。そのために、より実践をできるところへ行こうと考えました。(さらにお金がかからない方法で。)
 そこからはあまり時間がかかりませんでした。なぜなら、交換留学先のリストからサービスデザインを教えているところを探すだけだったからです。Aalot Univ.のDesign FactoryとService Factoryの活動はまさに求めるものでした。大学が発行する活動レポートや、先に留学していた友人への聞き取りからサービスデザインを本格的に実践していると分かりました。しかし、やはりそうした実践は建築(ヘルシンキ工科大学)ではなく、(プロダクト)デザインが中心となっています。そのため、先にあげたコースに入学するに至ったのです。ただし、アアルト大学ではインテリアに力を入れていることもあり、インテリアもデザインのほうで行われています。また、プロジェクトの中で空間の提案やモバイルアーキテクチャの提案もあるということで全く別の世界に来たとは考えていません。どうした課題が出るのかはグループ分けによって決まるそうで、非常に楽しみです。
 オリエンテーションまでまだ1月ありますが、英語に慣れておこうと早めに来ています。家もまだ決まっていないと前途多難ですが、実りある一年にしたいです。帰国してさらに研究と実践を行えるような道を今は考えています。