Reverse Innovation、リバース・イノベーション読了。

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 本書はソーシャルデザイン、インクルーシイノベーションなどの弱者と呼ばれる立場や地域から生まれるボトムアップ型イノベーションをビジネスマネジメントとして書き記したものだ。第一章では、リバースイノベーションとはなにか、なぜ求められているのか、何を実装する必要があるのかについて記述があり、次章では事例を通した解説とツールキット、リサーチで気をつけることがまとめられている。引用される事例は工業製品に限らず、ヘルスケアやパッケージデザイン、デーストレージサービス、農業製品などがある。

 特徴的なのはその事例すべてが先進国でなく途上国で生まれ、世界へと広がって行ったことにある。iPhoneがアメリカで開発され、そのコピー商品が半分以下の値段で中国で販売されるといった具合に、これまでの開発は常に先進国から途上国へと流れて行くものだったが、より新しく機能的で大量に生産されていくモノが求められる背景と途上国でのニーズは必ずしも一致せず、その溝の深みは増すばかりだ。日本人の我々がパソコンと携帯電話とダイアルアップ回線からインターネットに触れ、高速回線とタブレットを手にしてきた一連の経験は彼らと共有するのは難しい。ようやく彼らが携帯電話を、しかも安価な、手にいれた時、すでにソーシャルネットワークは生まれており、大量のデータがインターネットの中を流れていた。このギャップを想定して世界中へインパクトを与えるモノを作ることは決して簡単ではない。人口の約90%が途上国に暮らし、先進国の都市にもまた貧窮な生活を余儀されるものも多くいる。イノベーションのジレンマガラパゴス化はもうすでに企業の首を閉めている。

 意義のあるデザインを、イノベーションをとするのはソーシャルデザイン側の常套句であるが、本書ではもっとドライに、合理的に、成長が打ち止めされた状況を抜け出す手立てとしてリバース・イノベーションの事例が示されているに感じる。先進国で開発されたモノをベースに途上国で展開をする時の様々なギャップに頭を悩ますより、途上国で発見、解決されたモノをグレードアップし先進国で展開する方がコストがかからない。途上国から先進国までグラデーションのある販売計画を練ることが出来る。

 しかし、途上国で開発されたものがすべて先進国でなく展開可能なものであるとは限らない。本書では、この差分を埋めるために考慮すべき五つのギャップが取り上げられている。

(コスト)パフォーマンスー
 └ 収入や生活費が低い途上国では金銭感覚の違うためコスパの良い商品が求められる。コスパが良いものを求めるのは先進国も同じ。

インフラストラクチャー
 └ 交通基盤や電気水道ガスだけでなく情報インフラも含めて途上国は未開発。ポータビリティやアクセサビリティは両者共通の利点となる。

サスティナビリティー
 └ 安価で大量に生産されるものや環境に配慮した生産にはコストがかかる。先進国が学べるほど、早さと効率が重視される。

レギュレタリィ(規制)
 └ 様々な規制が先進国に比べ遅れているが、裏を返せば途上国が無理をしなければいけないということ。途上国と協調し、ともに守られるべき規制を構築する必要がある。

プレファレンス(好み)
 └ 文化的な背景や宗教的なものによって好みの違いが生まれる。多様なニーズを反映することは国際的な展開をする時には避けられない。適応化。

 これらのギャップフィルターを通すことで、"途上国のため"の開発になることを避ける。途上国内の起業家、経営者、研究者らとの共同や現地でのリサーチはギャップを埋める際には欠かせないし、ここで開発されたモノをポジショニングし、国内外のマーケットを同時に考える時にも欠かせない。ロジテック社が、中国のリサーチで違法ダウンロードした動画ファイルを見るためにパソコンをテレビに繋げる際に、パソコンと座席を行ったり来たりしていた行動からケーブルレスマウスを開発したという話は非常に面白い。ケーブルレスマウスが今日、私たちの生活で馴染み深いものになっているのは言うまでもないだろう。

 指標は途上国と先進国をつなぐためだけではなく、若者と高齢者、健常者と障がい者、国民と外国人といったような先進国の中に内在する様々なギャップを"ユーザー"として包摂する時にも指標となりうるものだ。『誰も』に向けた開発を考えることはデザイナーだけでなく、経営者にも求められる。それは『途上国の人を助けよう。』という啓発的なことでも、わずかばかりのお金の匂いにつられて途上国へ行くことでもない。全うな企業活動として、働き方として取り組むことになって行くのだろう。

リバース・イノベーション

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世界を変えるデザイン――ものづくりには夢がある

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