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フィンランド、アールト大学への交換留学を振り返って

留学 思考

http://instagram.com/p/aHaO6Yqe7l/
[3時前の空の色、学生寮から]

フィンランドにもついに夏がやってきた。日中は25度前後まで気温が伸び、3時から23時まで屋外は明るい。春は駆け足で過ぎて行き、街の色も白と黒からずいぶんカラフルで瑞々しい。僕の参加していた産学連携プロジェクトは夏の始まり、5月27日のクライアントプレゼンをもって終了した。九ヶ月にも及ぶプロジェクトを通して何を獲得してきたのか振り返ろうと思う。

産学連携プロジェクトの概要

僕が参加していた産学連携プロジェクトで求められたことは、「2025年の交通サービスにおけるシナリオライティング、コンセプトデザイン」の創出だ。クルマのデザインやサービスの創出ではなく、インフラやエコシステム(生態系)、ユーザーの行動やデバイスの技術的な発展など非常に広い分野のリサーチからストーリーを組み立てることが求められた。クライアントはトヨタヨーロッパのインハウスデザインコンサルグループ、KANSEI DESIGN(感性デザイン)だ。これまでにCIID(Copenhagen Institute of Interaction Design)ともインタラクティブデバイスを用いた交通体験の向上を図るプロジェクト*1を行っている。

先述したように、僕たち学生五人と二人のスーパバイザーのチームに求められていたのは、新しい技術やサービスと遺産的な都市や身体、そして社会をどう統合するのかを考えることだ。理解・網羅的調査、探索的調査、調査旅行、アイディエーション、プロトタイピングという過程を経て最終成果を作り上げた。提出した最終成果物は、プロジェクトブックとティーザービデオだ。プロジェクトブックにリサーチ結果、アイデアなどが含まれている。

チーム五名のうち、僕を含むデザイナーが二人、エンジニアが二人、そしてビジネスを学ぶメンバーが一人という構成だ。国籍は日本、フランス、スウェーデン、フィンランド。国籍、専門が異なるメンバーでそれぞれの強みを生かしつつプロジェクトを進行して行く。僕は主に定性的調査の設計、アイディエーションワークショップの設計、ビジュアルメイキング、エディトリアルデザインを担当していた。守秘義務契約があるためこれ以上は詳しくかけない。

デザインに求められる4つのポイント

  1. 問いを発見し続ける連続的な調査
  2. 手を動かしながら考えること
  3. 自分から離れたアイデアを取り入れること
  4. チームの距離感をコントロールすること

至極当たり前のことだが、留学の経験を振り返るとこの四点がプロジェクトの進行で非常に重要だったと感じる。

多角的な視点とは名ばかりに、個別調査の羅列を避けるために調査設計をフェーズごとに設定する必要がある。はじめに、ステークホルダーマップから浅く網羅的な調査を行った。僕はフォトエスノグラフィーとカルチュラルプローブを設計し、ユーザーリサーチを行った。チームメンバーは、統計的なもの、同業他社のケーススタディ、製品比較など。そこで得られた幾つかの短期的な推測と長期的な予測から追加調査の方向を設定する。調査結果の評価は、感情分類でマトリクスを作った。これらは実質的に最終成果物に繋がらなくとも、道を拓いて行く時に指標となり得る。調査の回数を踏むことで、推測と予測の距離を縮めることが必要だ。調査設計における方向と距離は経験で精度が上が、方法論に走って範囲ばかり広げてもダメだと分かった。

手を動かし考えることはなにも調査においてだけではない。調査と同時にラピッドアイディエーションをやろうと何度か提案した。回数はあまり取れなくて残念だったが、中盤の調査以降数回行うことができた。出したアイデアの数だけなら300はいってると思う。しかし、調査と同時に行われるアイディエーションWSはあくまでもマトリクスを築く時やアイデアの種を育むものだと考えている。コ・クリエイションのような参加型デザインが生まれる背景には、調査とデザインとニーズのそれぞれに剥離が生まれてしまっていた事があげられる。それぞれの関係性を高めるためにフェーズごとにラピッドアイディエーションを行い、リサーチャーとユーザーをデザイナー化する。こうして方向性を共有し、調査結果を目に見える形へと置き換える必要がある。調査結果はあくまでもアイデアの種。ストーリーテリングやスケッチ、ダイアグラムなどの見える化をしてアイデアを育む。水を撒いたり雑草や害虫をとらないとアイデアの種は育たない。

Service Design Tools
調査設計からアイディエーションまでよくお世話になったサイト:
Service Design Tools | Communication methods supporting design processes
http://www.servicedesigntools.org/

常に調査とアイデアを反映させ、さらに他者のアイデアを盛り込み自分とは離れたところにコンセプトを創り上げる。自分のアイデアではないところまで作り込むことが理想的だろう。それは責任を放棄するということでない。リサーチ結果の段階的統合、数回のラピッドアイディエーションによる多層的な世界の構築をしていくと自ずとデザインが自走し始める。終盤にはチーム内でも客観的に整合性と魅力を語れて、さらに特異な点を主観的に語れるようになっていった。細分化し、迅速な想像と統合を繰り返しが筋の通ったデザインを支えていたのだろう。

少し話が外れるが、こうしたプロセスを全うするにはマネジメントが欠かせない。プロジェクトマネジメントはビジネスの子が取り仕切っていたが、メンバー全員が進行の修正や変更を都度伝えてくる。管理責任の放棄ではなく、進行の都度生まれる差分の修正だ。このチームマネジメントは言ったもん勝ちだと気がついた。内容、担当、締め切りなど全てはっきりと言うことで決定していく。僕は出来る出来ないを言うことが苦手で(やれるだろという根拠のない自信があった笑)引き受けてたことが多かったけど、引き受けないことでチーム内での作業回転も上がると気づいた。引き受けすぎても受けなさすぎてもチーム内の共有情報が下がってしまうのだ。対等な関係だから言える、日本人はやりすぎに注意。

フィンランドで学ぶメタデザイン

Metadesign (or meta-design) is an emerging conceptual framework aimed at defining and creating social, economic and technical infrastructures in which new forms of collaborative design can take place. It consists of a series of practical design-related tools for achieving this.

http://en.wikipedia.org/wiki/Metadesign

チームとの議論は部分に走るメンバーにメタな質問をするというポジションだった。英語が苦手な分、質問をよくしていた。メタデザインのプロセスが講義でよく取り上げられていたことも影響してる。人間中心主義の人間はエンドユーザーだけでないという思考が身についた。これは北欧に来たからだと言えることかもしれない。アールト大学ではいくつものサービスデザインやメタデザインに関する講義がある。RCAミラノ工科大学のようにサービスデザイン専攻を創設し、専門領域として取り扱うところもあるが、アールト大学は学科を超えてこうした講義がある。もちろん専門領域の背景が微妙に違うのだがそこが面白かった。メタデザイン思考はすべてのデザイン領域で応用可能だ。

まとめとこれから

http://instagram.com/p/WpOwruqe5M/
[サービスブループリントを考え中…]

振り返った四つのポイントは、日本でも同様に得られたかもしれない。フィンランドでなくても同じような経験をはできただろう(デザイン思考関係の論文で取り上げられているようなポイントばかり)。ただ、国際的な環境で、フラットな(むしろ英語苦手でマイナス)関係の中でこうした経験をつめたことが自信に繋がったと言える。先輩後輩、大学などを抜きにして自分を試すことができた。後半、英語が少し話せるようになるだけで部門リーダーとして進行することが増えた。日本人はいろいろ知ってる。伝える言語能力が大切なんだと実感する。

そして、国際的な環境だから気がついたもう一つのことは、やり過ぎないことだ。改善の余地を常に盛り込んでおくことで、「次はこっち!」という方向を定めやすい。作り込みは方向を失う時があると気がついた。他者性の獲得にも繋がるだろう。これも日本人が陥りやすいことだ、作り込みは自然と参加障壁を作ってしまう恐れがある。徹夜するぐらいなら中途半端なものを持ってくることにイライラするけれど、逆にそこから議論が生まれたこともあった。そこを評価できるか出来ないかは大きい。学部生の時分を思えば、エスキスに不安げに持って行った時の方が先生と話が盛り上がり、創造性が飛躍をする時もあった。

アールト大学の中でも挑戦的な活動をするIDBMとサステナブルデザイン専攻で学べたことは大きい。形を作ることを超えたデザインを学ぶ場としていい経験ができた。緩さに不満が溜まった時期もあったけれど、日本にいた頃以上の自信を持って帰国できる気がする。帰国後は修士論文の執筆とクラフトデザインアワードで受賞した案の製品化に向けた活動が始まる。博士後期課程への進学を視野に入れ、広義のデザイナーとなるべく経験を積んでいきたい。

留学を希望される方に

もしこの記事を読み、アールト大学への留学、交換留学を希望する人が増えたら嬉しく思います。僕も先人の記録で決意した一人です。
ただし、注意があります。2013年現在、IDBMとストラテジックデザイン(工業デザイン領域)では、交換留学は半期しか認められていません。そのため、僕が参加していたインダストリアルプロジェクトは受けることができません。同様に通年のPDP(Product Development Project)とME310も参加出来ません。もし、興味があるならばダブルディグリーで申請することをオススメします。この方法ならば通年のプロジェクトに参加できますし、学位の取得もできます。詳しくは担当の方に訪ねてください。

その他、個人的に面白そうだと思っているのは;
Copenhagen Institute of Interaction Design
http://ciid.dk/

KISD - KISD
http://kisd.de/en/kisd/

InSB | Integrated School of Building
http://insb.us/

Strelka Institute for media, architecture and design
http://www.strelka.com/?lang=en

デザイン系の学生はなるべくデザインベースのところに行ったほうが面白いと思います。政策系、ビジネス系が主体のところでその能力は求められますがやはりモノづくりの機会は圧倒的に少ないです。デザインリサーチや社会的な問題を解決するデザインについて学びたいときは芸術デザイン領域から生まれる専攻を探してみてください。上述した大学はそれに当たります。

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*1:Toyota Window to the world - multimedia system - YouTube http://www.youtube.com/watch?v=dl9eqdZpvJU