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働き方から考える。

あけおめことよろで、一つよろしくお願いします。
12月から一斉に開始となった、"シューカツ"に学生のみんなは意気揚々としているのだろうか。理系、建築、デザイン系の大学院生はあまり多くの企業を受けるイメージはないが、シューカツサイトを見た時に『何社エントリーした?』という煽りを見て驚いたのを思い出す。僕はM2の途中で留学を決心したのは、シューカツから足を洗う決心をしたからだ。その直前までは就職活動はしていて、『やりたいこと』、『社会が求めてること』、『自分ができること』を建築・不動産コンサルに見出して説明会や面接まで受けていたが、多くの企業から『それはウチでは(でき)ないかもしれない。』と言われたのが印象的だった。その中でも、一社の方からは『ウチで経験をつんだ上で』という前置きがあった上で、『ぜひ自分で道を開いたほうがいい。』という助言を頂いた。それから留学し、フィンランドで色んな学生や先生方と話をしていくうちに、少しずつ働き方に対するリアリティが見えてきた。働き方の多様性を身近なものに感じてきたのだ。こうした経験を通して多様性が許容されるために働き方からその社会の設計可能性を探ることが求められているように感じる。

働くこと ≒ 所属すること?

なにがこれまでと違ったのか、素朴なところですが、『働き方の意識が変わった。』この一言に付きます。これまで色んな学生、社会人の方にお会いすることがあり名刺交換や自己紹介をさせていただきました。自己紹介のされ方が二つあることに気が付きました。一つは『◯◯大学(会社)の□□です。』と"所属"から自己紹介を始め、他方は『建築の設計をしています、□□です。』と"内容"から自己紹介をされる方がいます。僕は普段何気なく前者の自己紹介をしていましたが、これはもちろん労働していない、(プロとして)研究していないことが影響しています。やっていることの振れ幅が大きくなるに連れ、やってみたいことが具体化していくうちに、この所属は自分の活動範囲を狭めていないか、自分を正しく伝えられているのだろうかという疑問が湧いてきました。たしかに、『どこに勤めている。』、『誰と働いている』ということは、その組織が大きけば大きいほどそれとなくどういった仕事内容なのか想像できることもあり、無意識に使っていましたが、働き方が多様に・高度になるにつれて機能しないのではないでしょうか。なぜ私たちは所属から自己紹介を始め、所属から働くことを考えているのか、ここには日本の雇用システムのあり方が大きく影響しているようです。

雇用システムとは、このうち「ヒト」にかかわる管理領域、すなわち「人材の確保と配置、報酬の決定を通して人材の有効活用をはかるためのしくみといってよい (今野・佐藤, 2009)。

つまり、雇用システムは企業が目標達成をするためにどう人員配置し、生産効率を上げるのかと、その仕組みがどうやって労働者側に許容され実行されていくのかに左右されるのです。前者において、ヒトを機械のようなある一定の労働を行うモノと扱ったのがアメリカで、後者の組織力、規律を高めることで生産量の向上をはかろうとしたのが日本です(マースデン, 1999)。*1マースデンはさらに効率性の要請と受容可能性の方法によって雇用システムを、アメリカ型、イギリス型、ドイツ型、日本型の四つに分類しおり、日本型を"従業員の職務能力を基準として仕事を配分するルールであり、企業の側からその基準を職能等級としてルール化するもの"としています。また、日本ではジョブローテーションを通じて多くの職場(ただし、ひとつの会社)で働けるような幅広い知識と技術を身につけることが求められており、なにか一つに特化したスキルだけでは評価されにくい現状もあります。そのため、ある一つの技術に特化した職人としての働き方ではなく、組織やコミュニティのなかの無名の一人として所属し、働くことが求められていたのです。

働くこと ≠ 所属すること?

そうした背景から自分の存在を会社組織に見出す"会社人間"と呼ばれるような人々とそのアンチが生まれました。会社の意思=自分の意志、会社の成長が自分の成長であるというような意識を持つ人達です。経済の成長期ではこうした働き方は気持ちがいいでしょうが、停滞・下降していくときには非常に辛いものだと想像しやすいです。会社人間はその理由を労働者側に捉え、もっと働くことを推奨しますがそもそも経済の構造が変わっていることに気がついている年少者は非力さを感じ、組織への還元が働くことのモチベーションに成り得なくなりました。それならば労働を組織へ所属する時間の提供と金銭の交換と捉え、アフター5や休息日に家族や社外の友人らと遊ぶことを大切にしようという社外のコミュニティへの帰属意識を高めていきます。社会構造が変わり、求人の減少(就職氷河期第一世代)からフリーターが誕生したのは言うまでもありません。また、同時期に話題となった援助交際も同様の構造で生まれてきました。労働を金銭獲得(アメ)と時間提供(ムチ)によって分断し、その外側にある生活コミュニティへ還元する。働くことと暮らすことが分断されてしまい、切断された複数のコミュニティを渡り歩くような状況になっていました。労働問題、格差の是正が背景に日本でも2007年にワーク・ライフ・バランス憲章が制定されたが、働き方と暮らし方が分断された上で話が進んでいるように感じるため、どうも僕はこの言葉が好きになれない。
暗雲漂う社会の中、複数の仕事を持つフリーランスやフリーター、もっとインスタントに金銭を稼ぐセックスワーカーデイトレーダーなどが誕生し一つの組織に所属することが働くこと(=金銭を稼ぐこと)ではなくなっている。複数とパートナーシップを結び、いくつかの仕事をこなすことはそれほど容易なことではないとはいえ、今こうした一つの所属に固執しない働き方を実践することは"私らしく"働くことに繋がるといえる。ただし、それを容認してくれる社会が企業があるかと言われた多くはないしその制度も整っていない。週3で働きながら週3で大学院へ進学することも、雇用先を変えることなく子育てをしながら働くことも、ボランティアやNPOとして社会問題に取り組みながら働くこともまだ許容されにくい社会がある。

働き方の発見は社会を変える

社会福祉がそうした所属しない働き方・暮らし方を支えているのは留学中のフィンランドでよく分かる。目下、成長中のアングリーバードで有名なRovio社もアールト大学発のベンチャーだ。ベンチャープログラムで勝ち上がったブラウザゲーム、アングリーバードはメディアミックスし、今ではゲームだけでなく様々な分野で活躍している。このベンチャープログラムは学生起業家と投資家たちを結びつけ、ラボを貸出し、単位も取得できる*2。また、学生の中には大学院二年目になるとパートタイムジョブで企業で働きながら修士研究を開始するものもいる。これは、企業のリサーチアシスタントとして働くこともあれば、全く違う企業で経験をつむ場合もある。当然、フルタイムに比べて少ないのだが、学生は奨学金+住宅手当(国から)+給料(大学もしくは企業から)で約20万円程度の収入を得る。フィンランドでは学歴よりもワークエクスペリエンス(職歴というとちょっと違うイメージだったので)が重要視される。学生らは自主的に、自由に働き方と暮らし方を選択することができ、それを企業も求めているし行政も支援してくれる。また、約五ヶ月の育児休暇を取得できるため企業はそれを前提とした採用システムを取ってる。これらを支える23%もの高い消費税は、もはや社会システムを支える投資だ。
僕が所属するIDBMはこうした起業家教育を推進するが、これは他のデザイン分野でも同じだ。アートでさえマネジメントの授業が当然ある。イノベーションはかつて企業を刷新するモノだと訳されていたが、そのスケールは広がりを見せている。私は、イノベーションを新しい製品やサービスを作ることでなく、私らしい働き方を獲得することだと考えている。その働き方を支えるモチベーションがイノベイティブなプロダクトであり、サービスではないだろうか。社会システムがそれらを包括しているとすると、新しい働き方の発見は社会システムの微細なアップデートが必要になってくる。現在の小学生のうち65%が50年後に新しい職種につくとされる*3今、イノベーションは新しい働き方を獲得するための土台である。イノベーション教育が働き方を多様性を許容する社会の設計プロセスに組み込まれていることを強く感じる。

終わりに

最後に手前味噌で申し訳ないがこうした私らしい働き方を支援する人、実行する人たちの話を聞く会があるので紹介したい。特に僕と同じ学生の参加を促したい。私らしい働き方ってどうやってるんだという疑問を持っている人、なんとなくシューカツサイトに登録してしまった人たちは刺激的に違いない。研究室の作業で忙殺されていたり、ただ働きを強いられるインターン生はこの時ばかりは、その環境を変えるためにボイコットしてでも来ていいのではないだろうか。今回は柔らかく話を聞くことができる回ではないかと予想できる。身構えることなく聞けるイベントのため迷っている学生はすぐに予約をした方がいい。マーケティングではなく本当に社会人からの参加希望者が多く、このままでは学生枠を削らなければいけないレベルだから。


2013.01.20 PROPS プロトーク 第三回『働き方・生き方・稼ぎ方』 | PROPS プロトーク
http://props.a-ri.jp/category/event
会場:コクヨ エコライブオフィス品川
住所:東京都港区港南1-8-35
http://www.kokuyo.co.jp/creative/ecooffice/
前売り2,500円(学生2,000円)、当日3,000円(学生2,500 円)(1部〜3部共通)
※前売券のご購入はこちらから http://peatix.com/event/8542
ゲスト:
1部 ー転職経験者に聞く「キャリアって、結局なんですか?」ー
内藤滋義、大久保慈、高杉義征、平野竜太郎
2部 ーキャリアを活かす、仕事の”場”をつくるー
中村真広、伊藤洋志、菊池 健、山下正太郎
※詳しい紹介はこちらから 一部:http://goo.gl/mZOTt、二部:http://goo.gl/TY2IJ

仕事の社会学 改訂版 --変貌する働き方 (有斐閣ブックス)

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ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉

ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉

*1:雇用システムの理論―社会的多様性の比較制度分析: デヴィッド マースデン

*2:Aalto Ventures Program http://avp.aalto.fi/

*3:現小学生の65%は今存在していない職に就く--マイクロソフトが教育事業に取り組む理由 - CNET Japan http://japan.cnet.com/news/business/35018390/