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動き出す二つのデザインプロジェクト

思考

大学院を修了し、気がついたらそろそろ一ヶ月が過ぎそうだ。実家へは一時的に戻るつもりだったのだが、このまましばらくは名古屋にいることになりそうだ。元々は海外への博士課程進学を検討していたのだが、語学が足りず最低1年は勉強をしながら金を稼ごうかと悩んでいた。その時に、地元の友人からとある人を紹介をしてもらった。絞り染めで著名な有松で染色工場を営む若社長だ。

若干29歳ながら稼業の染色工場で切り盛りする。職人として工場内だけで期待をされているけでなく、地域でも威勢のいい若者としてさまざまなことを任されている。友人の紹介では、「まちづくりや若者支援に意識ある人。デザインとの繋がりを広めたい。」と言うことであった。問題意識はあるものの、職人としての成長、社内外での活動があるためなかなか促進できないかった。そこで、友人が若者支援の一つとして「ASANOをデザインリサーチャーとして業務委託できないか。」と話を振ってくれたようだ。それから数回の打ち合わせと契約を進め、これから大きく二つのプロジェクトが立ち上がろうとしている。

一つは、工場のデザインリサーチを経たブランディングである。伝統産業の抱える課題を例に漏れることなくここでも抱えている。そのうちの一つが、技術ベースで後手に回っている企業ブランドの確立である。伝統産業と言うアイデンティティはあるものの、他と何が違うのか、どこに価値があるのか、これからどうするのか、誰に伝えたらいいのか、どう伝えたらいいのか。をきちんと説明出来るほど現状を整理しきれていない。ここでは、これまでの歴史や技術の再編を行うとともに、これから打ち出して行く方針を定めていく。そして、広報誌や実験的なブランドの立ち上げまで行う計画である。ブランディングやデザインディレクションにまでその領域は広がる。

そしてもう一つがデザインリサーチによる地域ブランディングだ。伝統産業が抱えるもう一つの課題の一つがブラックボックス化した産業の仕組みにある。伝統産業の傘の下で守られてきているため、閉鎖的なコミュニティが出来上がってしまい、どうやってコミュニティに入り込むことが出来るのかわからない。また、生産者側の視点で言うと、生産者と消費者と言う関係の中にいたため、新規参入者をどう取り扱っていいのかわからないと言うこともある。それが若者などの新規参入を拒んでいるかのように見えてしまい、縮小を加速させているようだ。そこで、デザイナーから職人、仲介人、商店、利用者までの見えない関係や環境を明らかにし、参加出来る余地を見出し、新たな関係や環境をていくことが目的だ。職人、建築家、グラフィックデザイナー、デザインリサーチャーの四名が中心となり、リサーチ結果をベースとしたサロンや展示の開催を通して、伝統産業の町から、創造的な町へと、他者に開かれた環境を構築していくことを目指している。

ひとつの染色工場に潜り込むことで、地域を俯瞰して語る多数の可能性が広がっている。国内において、デザインリサーチャーが染色工場と単独で契約を地び、活動を開始している事例もおそらくないだろう。このプロジェクトを通してまだ一般的でないデザインリサーチの外部委託が促進されるようなベンチマークとなることを期待したい。