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デザインリサーチを体験する「カレーライス」ワークショップ

思考

「デザインリサーチとはなんですか?」と聞かれることから、私の自己紹介が始まります。「文脈の理解と物語の構築をすること」と返答することもありますし、「言葉にならぬ『当たり前』を見つけることから始めるデザインです」なんて説明をする場合もあります。お答えした相手はほとんど頭の上にはてなマークが付いていることが多いので、まだまだ自分の言葉になっていないんだということを実感します。

 
事例を話すことで理解してもらえることがほとんどなのですが、そんな時間がない場合には困ってしまいます。逆に時間を持って疑似体験できる時には、ワークショップ形式でデザインリサーチャーを体験してもらっています。
 
デザインリサーチャーになるカレーライス・ワークショップ(所用時間:45分)
〈目的〉
デザインリサーチの役割や方法を理解すること
 
〈道具〉
・A3くらいの用紙
・太いペン
 
〈やり方〉
  1. 人数が多ければ3名以上でグループをつくり、8名程度なら全員で一緒にやりましょう。1人を進行役に、他のメンバーは参加者。
  2. 進行役は参加者にペンと紙を配り、思い出に残っている家庭のカレーライスの絵と説明を参加者に書いてもらう(10分)。具体的にどんな具材が入っていたのか、どんな時に食べていたが、誰と食べていたのかなどをなるべく書いてもらう。
  3. 参加者は1人ずつ「わたしの思い出に残っている家庭のカレーライス」をプレゼン(各2分)。
  4. 進行役は「なぜそのようなカレーライスがつくられたのか」参加者に尋ね、思い出のカレーライスにまつわるエピソードを抽出し、参加者と分類していく(10分)。e.g.時短料理としてのカレーライス、家族旅行を象徴するカレーライス、自立過程におけるカレーライスなど
  5. グループごと、あるいは参加者全体でわたしの思い出に残っている家庭のカレーライスの構造を理解する。【文脈の理解】
  6. 参加者から抽出されたカレーライスの文脈のなかで、最も極端な事例や面白い事例を選び、その文脈をもとにした新しいカレーライスのアイデアを思案する(15分)。e.g.キャベツとちくわの入ったカレーライスは、文脈に「カレーライスしか子どもが食べず、青野菜などを一緒に摂らないこと」を心配しての行動だった。そこで子どもが野菜を自然に摂れるカレーライス、あるいは食の組み合わせ、あるいは食体験を提案せよ。
  7. 参加者はポンチ絵+コメント程度で構わないので、アイデア 1個/分を目指してたくさん考える。進行役は時間配分を気にしながら、アイデアの種を投げていく。とにかく手を止めないこと。
  8. 進行役は提案された内容を分類し、「小さな子どもを持つ家庭のための、たくさん野菜をとることができるカレーライスにまつわる物語」を描く。【物語の構築】
 
5のステップまでで、ごく当たり前のカレーライスというものが各家庭で違っていることが見えてくるはずです。ゴツゴツに切られた野菜のカレーライス、イベントとカレーライス、お父さんのカレーライスなど、誰もがご飯にルーのよそっている「当たり前のカレーライス」などつくられたイメージでしかないことを理解できると思います。
ちなみに、私の家庭では、中学生までごろまで家庭のカレーライスに、キャベツとちくわが入っていました。ずっと当たり前に各家庭にもそのような具材が入ってると思っていた(思わされていた)のですが、母親に改めて話を聞くと「カレーにするとカレーばかりたべて野菜を食べなかったからね。サラダつくってもムダになってたから、キャベツを入れてた。」とのこと。(カレーライスにはキャベツを入れると青野菜の苦味が出るのでオススメしません。)このように、置かれている文脈の違いからカレーライスにもさまざまな形態があることがわかりました。
6からはこうした極端な事例をもとに、あらたなカレーライスの体験を考えていきます。極端な事例をさらに極端にしたり、極端なまま一般化するアイデアをここでは出していきます。それはカレーライスの調理法だけではなく、例えば、食育の開発、調理器具や食器の開発、バイオテクノロジーなどの食材開発も含まれてきそうです。どれが正解だということはありません。とにかく面白おかしく、青天井にたくさんのアイデアを出すことが重要です。
 
ここまでのステップを通して、デザインリサーチで重要とされるなぜを繰り返して認識される「文脈の理解」と体験のイメージ化を重視した「物語の構築」を理解することができたのではないでしょうか。例えば、あなたが食品メーカーに勤めていた場合、カレーライスのルーを開発を求められた場合、どのような方法を考えるでしょうか。これはマーケティングリサーチのように、統計的ニーズ主体の調査ではありません。しかし、もし実際の家庭で同じように「文脈の理解」を展開したらどのような家庭像が描かれるでしょうか。もし各家庭で実践されていたまだ見ぬカレーライスが我々の家庭に入ってきたら、どのようなモノやサービスが必要でしょうか。
このようにデザインリサーチでは、「文脈の理解」のために調査設計、調査分析を行い、「物語の構築」のために試作、デザインを通した調査、デザインを行います。今回は誰もが当たり前に知っていると思い込んでいるカレーライスを例に、当たり前とはなんだろうかを考えてもらいました。この「カレーライス」が別の環境の別のものだったら、どんなことを発見し、デザインすることができるでしょうか。まだ見ぬ可能性と課題をつかむデザインリサーチに、多くの方が興味を持って実践してくれることを期待しています。