メタデザイン: 対話のためのアイデアワークショップ
原研哉や藤村龍至は予てから、デザインをデザインすることにより、これまでに見られなかった共創や創発といった他者性の獲得を目指したデザイン言語を目指してきた。学術的な領域では『デザインを支援する環境をデザインすること』を「メタデザイン」と指し、昨今のデザインリサーチャーやファシリテーターと呼ばれる職能の一つとしている。メタデザインでは、ワークショップよ成果物として生成されるスケッチやプロトタイプを重視するのではなく、スケッチやプロトタイプの背景や生まれたものを通してデザインが乗るシナリオを再考することに目的を見出している。
プログラムはおよそ3部構成となり、アイデア出しとグルーピングを2回行い、最後にプレゼンテーション。初回のアイデア出しは体験や記憶をキーワードとして記述し、二回目はゲストクリエイターがピックアップしたキーワードに具体的なイメージを与えていくもの。そして、そのイメージの総和が何を指しているのか、改めてグルーピングして、プレゼンテーションを行う。最終的には二つのグループから「小人のような視点」で「包まれた感覚」を感じさせるアイデアや「ポータブル」で「ライフログ」を生かす媒介としてのアイデアが出された。
さて、今更ながらこのワークショップの目的を記したい。とあるプロジェクトにより、国外のデザイナーと話を進めるにあたり、オンラインでのやり取りでは互いの強みや興味を理解することは難しい。言語や文化だけでなく、生活習慣や価値観まで異なる場合がほとんどだ。そのため、今回のワークショップでは、「共有する価値観の表出」、「デザイナーが創造する過程・動機」、「職人とデザイナーの関わり方を模索」するために設計された。つまり、プレゼンテーションまでに記述されたキーワードやスケッチなどをテキスタイルデザイナーや絞染色職人がどう肯定するのか観察していたのだ。スーパーバイザーの2人には、「具体的な項目を挙げて賛同すること、共有することを教えてください」と伝え、プログラムの中に発言を促す場面を設けていた。
こうして得られた共有するキーワードをもとに、翌日の振り返りでは、「デザインのアイデア」を見出していく。なぜそのような共感をしたのか追加インタビューをしながら、デザイナーと職人の価値観を見えるようにし、対話を促す。今回のワークショップでは、日本人が日常的な驚きや発見をもとに創発していたことを欧州のデザイナーは驚いており、彼女自身の制作には「えも言われぬ感情」や「蓄積されてきた人生経験の爆発」が起因していることが発見できた。そのため、単なる「◯◯風なデザイン」と言った抽象的な発注にするのではなく、より具体的な体験を引き起こすデザインの発注になることが予想できる。このように「メタデザイン」によるワークショップとは、作風やイメージが先行した「置き換える」発注(浴衣地に洋風な柄をあてがうなど)ではなく、作家のインスピレーションを高め、互いが目指す価値観を共有する対話の機会となるだろう。