生きる糧と生きる術を生み出すクリエイティビティ

「なぜ?なに?どうして?」は、デザインリサーチャーの口ぐせだ。さまざまな活動の裏側にある「動機」や「本質」を捉えるためには、イエス/ノーでは答えられないオープンエンドな質問を繰り返すことを徹底的に行うことが求められる。学術的にデザインリサーチの歴史は文化人類学的なアプローチを援用することで文脈の理解を推し進められる。時には無邪気な子どものように、眼光鋭い警察のように。「うーん、、」と唸りながらも、普段は言葉にしない無意識の中にある思いをひとつひとつとらえて言葉にするインタビュイーは、まるで「丸裸にされる思いだった」と調査の経験を振り返る人もいれば、「よくぞ聞いてくれた!」と饒舌に人に知られぬ経験を話すこともある。

 

「関係と環境」を起点に始まった活動

先日、お声がけいただいた、「近代建築再生スクール 「旧田内織布 母屋」LE:レクチャー vol.4」では、「まちマネージメント」の視点について有松での活動をお話しさせていただいた。デザインリサーチャー/サービスデザイナーとしての活動を背景に、まだ3年程度しか行っていないゲリラ的な活動「ARIMATSU PORTAL; PROJECT(APP)」を事例に、どんなビジョンを掲げて、誰を対象にどんなアクションをしてきたかを振り返り、そして、今後どんな展開を想像しているかという構造だ。APPの発足当初は、伝統工芸が色濃く残るまちへのタッチポイントがわかりづらいこと、また、関わりを継続的な活動につなげる入り口が見えづらいことを課題としてとらえてきた。有松以外ですでに地域と密接に関わりながら活動を行うクリエイターらをお呼びし、その活動についてお話を伺うことから有松でなにができるか模索することから始まった。登壇者らは地域への熱心な思いとユニークな着眼点もさることながら、さまざまなアプローチによって熱量が徐々に広がり、まちへと参画するパブリックマインドが伝播していることが学び取れた。

 

まちの固有性である流動性×人的資源を再び

デザイナーや建築家の友人らで行うAPPでは、ゲストらの活動事例を参考にしつつ、トークイベントからワークショップや展示、そして草の根的なコミュニティデザインへと展開を進めていった。絞り染色におけるつくる行為とネットワーキングに着目したデジファブワークショップ、地域のオリジナリティを再定義することを目指した「誰のための有松絞り展」や「有松をうばえ!展」、さらに遊休不動産の活用を目指したポップアップショップなどを行うなかで、地域内外の人たちとのつながりや思いを広く共有していくことになった。これらの活動を進めていくなかで、重要伝統建造物群保存地区認定に伴う観光地化への動きが行政を中心に加速していくなかで、我々が間借りする古民家の一部は名古屋市の観光案内所となり、地域内外の声に触れる機会もさらに増えていった。私たちは果たしてどのような暮らしをこのエリアで目指していくのかという議論が過熱していく。地域に多数いる熱心な勉強家や活動者たちと触れ合うなかで、暮らしや産業が隆盛していくときに、出入りする人々が多数いたことや地域内外のつながりや流動性が大きく寄与していくことがわかった。翻って現在の有松を注意深く観察すると、流入人口は増えているものの、大きなインフラに囲まれているものの通り抜け交通として利用されていたり、繊維産業の衰退に伴うコミュニティの縮小、目的地となる商店や飲食店がどんどん少なくなっていることが目についた。改めて、まちの原資に立ち戻り、この流動性と人的資源をどのように獲得できるだろうか。我々が実践すべき次の課題はここにあるように思う。

 

生活スタイルとの建物スケールの乖離に悩まされて

APPでは、「ごえんの投票」を通じて当事者としてどのようにまちへと参画するか投げかけるとともに、それ自体がメディアとして参画を促す仕組みを実践した。「有松でしたいこと」と「古民家で実践したいこと」というテーマで2回の掲示を行うと、遊びたいと暮らしたいが初回は上位に上がり、次の掲示では飲食店と雑貨屋が上位に並んだ。観光地としての認識がやはり強まっている一方で、目的地の少なさに目をつける人々が多くいることがうかがい知れる。また、古民家の暮らしに憧れを抱く層がいることが分かったが、投票をしている人や地域で生活をする人へ聞き取りを行うと「誰に相談すると良いのかわからない」という声に加え、「暮らすには(かつての商屋)大きすぎる」という声も多数得られた。遊休不動産を所有する一部の人たちや町並み保存を応援する人々もまた、貸したいけれどこの課題の前に頭を悩ましているようだ。現代の生活スタイルと建築スケールに乖離があることは想像に難くないが、この地、この建物で行える新たな生活スタイルの提案には至っていない。こうした課題は全国各地の遊休不動産に頭を抱える地域で起きており、その解決方法のひとつとして、エリアマネジメントとして遊休不動産活用を行う現代版家守が注目を浴びている。

 

つくりながら暮らすビジョン獲得に向けて

APPが草の根的なまちへの介入を行う中で、眼前にそびえる大きな課題に直面し、それがまた関係と環境を改善する可能性を秘めていることがわかってきた。しかし、この小さな個人活動の限界も同時に直面しており、再び活動を見直さなければならない時期に来ていると感じている。これまでは活発なクリエイターとその想いに共感する人々を中心に活動を行ってきたが、新たなライフスタイルを有松で実現したいと思える人たちを直視しなければならないということだ。そして、その人たちとともに実現するひとつのビジョンとして、私は「つくりながら暮らすこと」を掲げていきたいと考えている。つくるという行為、それ自体がまちへの参画とコミュニティ醸成のきっかけになることは、これまでのワークショップからも実感しており、昨今のメイカームーブメントからも可能性を強く感じている。さらに、遊休不動産活用による新たな事業創発や地域経済の活発化は、先に挙げた流動性と人的資源を高めるきっかけとして大いに期待することもできるだろう。

 

生きる糧と生きる術を生み出すクリエイティビティ

これまでの試みを通じてAPPは、目的と手段を獲得したクリエイターとの交流を通じて、まちへの参画を促す試みを学んできた。そして、実践してきたワークショップやポップアップショップ、さまざまな展示や実践知の共有は、「生きる術」としてのものづくりや事業運営のきっかけを、「生きる糧」としてこれからのライフスタイルを考える機会を創出してきたと言えるのではないだろうか。パブリックマインドをもつ地域の方々が新たな事業を起こそうと準備を始めていたり、半ば諦めかけていた遊休不動産の活用を実現しようとする不動産オーナーも徐々にではあるが生まれつつある。地域には術と糧を持つ人々ばかりがいるわけではないが、この境界を乗り越えるきっかけとしてクリエイティブが果たす役割はとても大きい。「なに?なぜ?どうして?」から始まった小さな活動から始まり、つくりながら暮らすビジョンの共有と実現に向けた具体的なミッションが見え始めた今、新たな試みを再び初めて行こうと機運が高まっていることを強く実感している。

 

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