戦略的に小さくはじめてみることから〜デザインの実践を通じて

まだまだ寒い日が続きますが、暦の上では春が訪れています。

この時期はどこもかしこも「年度末までの案件」が飛び交い、補助金事業を行っている方々に関連してデザイナーたちもドタバタしている季節です。

終わりの季節はどこもバタバタで落ち着いて考えるヒマがないまま次年度に突入していくことが往々にしてあるかと思います。

僕が事務所を構える名古屋市・有松は、2017年に採択された補助金事業によって観光案内所の運営を行っています。

例に漏れることなく、次年度の動き出しについて、行政・民間・地域の人々が大きな舵取りができないまま終わりの時期を迎えているように思います。

昨年の説明会で何度も聞いてきた「自走化」という言葉すら最近では聞かなくなってしました。

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勝手に始めてやろうとしていたニュー観光

スポットライトは当てられているが

歴史観光という枠組みの中で桶狭間と有松は、名古屋城や熱田に次ぐ観光エリアとして位置づけられており、名古屋市やマスメディアにも取り上げられることが増えてきました。

しかし、紋切り型の「絞りという営み」と「江戸時代から続く街並み」ばかりが取り上げられ、現代の生活とのズレや古民家活用の課題に触れることなく流されてしまう現状に悲しくなることがしばしば…。

少子高齢化や伝統産業・線産業の縮小、遊休不動産の活用、イノベーション人材の育成など、日本全体が抱える大きな課題との接続がなされることなく、桃源郷のように語られていては何も変わりません。

スポットライトの影に隠れている不都合な真実を乗り越えていくためにも、にわかな盛り上がりを冷静に取られてその先にどのような生活を描くのか実践してみることが求められているように思います。

光の先にある「何か」を見つけるために

私たちは2014年からARIMATSU PORTAL; PROJECTとして、「関係と環境」に着目した小さな実践を試みてきました。

歴史や土地だけでなく、産地特有のさまざまな資源を有したエリアではあるものの、歴史を重ねたまち特有のタッチポイントの少なさが課題のまちです。

また、絞り産業と生活の距離も少しずつ離れていき、これからどのような暮らしが可能なのかを考えられる機会もあまり多くありません。

重伝建決定となる前後で、この地を訪れる人たちが主体的にどのようにまちへ関わろうとしているのか。また、私たちが間借りする、現在一部が観光案内所となっている「山田薬局」をどのように活用できると考えているかを投げかけるために、「ごえんの投票」という投票方のメディアを設置しました。

1ヶ月近く設置したところ、「遊びたい」と「暮らしたい」が同率一位となり、次の投票では「飲食店」や「雑貨店」が上位に来る結果となりました。

半径2kmでおさまる有松で遊びたいと思ってもその目的地が少ないこと、暮らしたいと思っていても現存の商屋が大きすぎるのではないかという課題が浮き彫りになったのです。

そこでAPPメンバーのひとりでデザイナーの武村さんは実験的に、観光案内所が開いている週末に合わせて土間でポップアップストアを始め、地域の人からの応援や訪れる人が物珍しそうに眺めていく状況を生み出すことになりました。

現在は諸事情があってポップアップストアは閉店してしまっていますが、案内所で働くパートの方々を筆頭に、近隣の方からも小さなアクションを起こすことを前向きにとらえてくれる人が出てきています。

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設置していたごえんの投票

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一時的に僕が作ったモルタルの棚も置いてもらっていて、イベントに合わせて3つほど購入してもらえました

戦略的な小さなアクションを次にどう繋げるか

名古屋市が委託する観光案内事業は、経済文化交流局の部署によるものです。

重伝建は歴史まちづくりがリードしてきた街並み保全から始まっていますが、こちらはソフトに力を入れる部署のため、案内所やお土産開発には力を入れることはできます。

しかし、有り余る遊休不動産の活用は都市住宅マターで、さらに公共空間の活用は土木や緑地公園マター。

国道や鉄道に挟まれているこのエリアでは交通戦略も非常に重要なため、必然的に部署横断をしながら規制緩和や事業支援をする必要があります。

民間は行政をリードして活用する事業計画やこれからのライフスタイルを描くことが求められていますが、まだまだ小さな動きに留まっています。

私たちはAPPの活動を通じて有松が持つポテンシャルを「つくりながら暮らすこと」を実践できることに見い出しています。

素材や人材が揃うこのまちにおいて、つくることはファン・コミュニティの醸成だけでなく、産業都市・愛知のこれからの生活像を描くことにもつながると考えられます。

バーチャルな交流に留まらない実際に手を動かしながらつくることは、次の課題や可能性をより具体的にしていくトリガーとなる。

これこそが重要な視点であり、今、始めていかなければいけないことではないでしょうか。

「30」という数字をもとに実践してみる

有松というエリアの30年後を見据えてこの活動を行うために、私は「30」という数字が重要だと考えています。

・活力のある「30」歳台を筆頭に
・活動の中心となる「30」人の人びととともに
・徒歩「30」分圏内から
・目的地となる「30」箇所の魅力的な場を創出し
・1サイクル「30」ヶ月で情報発信を続けていく

活動を通じて見えてきた具体的なミッションを進めながら、「つくりながら暮らす」ビジョンの実現に向けて取り組みを始めていくことを今は考えています。

不安な未来予測ばかりが目立つ現代ではありますが、ひとつひとつのステップを細かく見ていくと乗り越えていく可能性を見い出すことが私たちはできるはずです。

そのためにも行政や民間問わず協力体制を築き、新しいことを慣用して後押しする関係と環境を育むことができるか。

デザイン単体による取り組みの影響力は小さく見えるかもしれませんが、巻き込むプラットフォームを少しずつ広げていく力を持っていると私は信じています。

エリアの自走化に向けた取り組みが、これから訪れるであろう大きな課題と真摯に向き合い、未来の暮らしを築いていくことにつながることを期待しています。

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