観察することから

あっという間に秋学期が始まり一ヶ月が過ぎようとしていますね、今月からまたblogをちょくちょく書き記していきたいなと思います。
 秋学期開始に伴い、大学院でグループワークが始まりました。東アジア圏の観光客増大に伴い、彼らが滞在中に使う製品またはお土産の製品開発を行動観察をもとに行いなさいというものです。前期は大地震の際に大学が出来ることをまとめなさいというものでペーパーベースの提案となっていたのですが、後期は企画開発ということでモノを作ることができるのでとても楽しみです。同期や先輩らに話を聞いてみるとインタビューのような調査はあれど"行動観察をもとに"という課題はここ数年で珍しいという話だそうです。デザイン経営工学という専攻からマーケテイング調査やエンジニアリング観点からの調査などは行うのですが文化人類学的な定性的調査を元にということはなかったようです。

 定性的研究の中で建築側からはフィールドワークというものが馴染みあるかと思います。私も学部時代のまちづくり研究室ではこのフィールドワークやワークショップを通して地域の方々の話を調査していくということがありました。まちづくりのような複雑で様々な行動や生活が絡みあう対象において、それらを紐解き結びつけていくためにKJ法やワールドカフェといったものが用いられます。別の例で言いますと、考現学の発案者である今和次郎はフィールドワークから東京の人々がどのようなモノを好んでいるのか、など眼に見えるものを徹底的に記述し考現学を提唱しました。こうした定性的な調査の背景には統計的なデータを用いる定量的な調査では利用者の心理的な要素が調査項目から抜けてしまうと記述が難しく、また複雑なネットワークに対してその結びつきを記述することが困難であるということが指摘されます。(ネットワーク分析など複雑系の解析方法があることはもちろん知っていますし、それらを否定するわけではありません。)
 この他にも様々な定量的調査がありますが、それらはともに『フィールドへ赴き→データを取得し→課題を発見し、仮説を構築する』といった共通点があります。しかし、この課題では調査にだけ焦点が当てられているわけではなくデザインを軸に企画開発が求められています。そのため、この先には『プロトタイピング→実地検証→製品の実装』が必要とされています。この後半部分に渡るために前半の定性的調査でいかにインスピレーションを得て、遠くを想像できるかが重要となってくるのです。こうした調査や開発はIDEOなどのデザインコンサルティングファームが有名です。特にIDEO前期の活動はとても創造的であったと思います。日本でもこのデザインリサーチは研究としてえだけでなくビジネスシーンにおいても注目が集まってきています。先日のガイアの夜明けでは大阪ガス行動観察研究所が取り上げられていましたし、また、東大i.schoolの田村さんがおっしゃられているビジネスエスノグラフィーなどもいい例です。全体のボトムアップを図っていた日本から多種多様な成熟期においてこのような調査はより重要となると感じています。
 ようやく、私たちが何をやり始めているか紹介します。この課題が出てからすぐに台湾からの留学生にお決まりの京都観光コースを聞いたところ、『清水寺→銀閣寺→金閣寺』ということがわかりました。そこでまずは観光客がどの様な行動をしているのかを観察することにしましたが、特定の問題意識を持って始めるのではなく観察のデータから捉えるべき課題の発見を目的として行いました。調査では観光客になりきり彼らの動向を真似て何を考えているかを想像し(実際に留学生が三人ついていたので彼らの行動をよく見ていました。)、気になる点をどんどん写真に収めていきました。その結果、アジア圏観光客の多くが手荷物が少ないことや短時間で多くの観光地を回っているため行動が早いことがわかりました。しかし、京都の観光地はパンフレットやお土産など手にモノを持つ機会が多いです。そこで次に大学にて後輩を使ってどの様に増えていく荷物を持っていくのかを調べたところ手で持つにしても様々な方法があり、そうした理由もそこには多くありました。かばんを持っている持っていないで購買活動に少なからず影響が出るのではないかということが学生への聞き取りでわかりました。

(※中央の男性はアジア圏観光客らしい。周囲の観光客と違い手荷物は少ない。)

 こうしたリサーチのためのリサーチをすることで観光客の行動をあぶり出し、徐々に問題を明確にしていきます。そうした調査と簡単な実験から、次に観光スポットからバス間の行動に着目し、シャドーイングを行うことに決まりました。また宿泊施設のポーターやツアーガイドボランティア、お土産屋さんのスタッフへの聞き取りをして荷物をどう扱っているのかについて調査していくことに決まりました。こうした気づきから次の現地調査を行い、アイディアのためのインスピレーションを増やしていきプロダクトのアイディアを膨らましていきたいと考えています。何も持っていないことがいいのか、持たせる法がいいのか。次の観察調査で見極めたいと思います。