イノベーションのための文書化は何を加速するのか。


日本へ臨時帰国して返って来た翌日、ついに本格的なプロジェクトのスタートとなった。School of Design, Engineerng and Economicsの学生ら三十名が混合となり、12個のうちいずれかのプロジェクトに配属される。このプロエジェクトは主に企業との産学連携で行われる。フィンランド発の企業だけでなく、国際的に展開する企業まであり、ジャンルもICTサービス関連からスーパーマーケット、化学製品の会社などがある。またソーシャルイシューに取り組むUNICEFのような機関から社会起業ベンチャーまでとプロジェクトは多岐に渡る。ほとんどのプロジェクトは約五名前後で構成され、(一応)生徒のバックグラウンドと興味によって配属が決定されるらしい。当日までどういったプロジェクトがあるのか、どこに配属されるのかわからないため当日はみんな緊張の面持ちだった。

チームメイトとの対面

僕はそのなかでもエコモビリティサービスを展開しようとする国際的な企業への配属となった。詳細はコンプライアンスにより書くことが出来ない。チームメイトはエンジニアから2名、エコノミクスから1名、デザインから2名(僕をふくむ)だ。翌週、朝から企業側からのショートプレゼンテーションを控えていたので簡単な自己紹介を含めて何を聞くのか、どう関係していくのかという話をしていた。その前日にはリーダー的なメンバーから『バックグラウンドや目的など含めた自己紹介を短いセンテンスでね。』とメールが送られてきた。とにかく一度自分たちの立ち位置を明確にしようということらしい。当然、背景が違うのでそれぞれの"ゴール"も違う。とうぜん関わり方も違うなかでどこを共有できそうなのかを探っていく。この日のうちにチームビルディングのための"お泊り会"も企画された、恐るべきコミュ能力だ…。

目的を明確にし、方法を探る


翌日に企業との面談を済まし、企業側からの要求をおおまかに把握する。一方でテーマが大きいため自分たちがどうプロジェクトに関わっていけるのかが今のところぼやけてしまっている。これは、『誰のためのプロジェクト/サービスなのか。』ということを整理する必要があった。国内だとそれぞれの裁量のもと関連資料などを持ちあわせてあーだこーだと会議(雑談)が進行されるのが予想されるがアールト大ではプロジェクトマネジメントのレクチャーを受け、『プロジェクトの目的を明確にし、そこに向かう上で重要な指針/行動は何かそれぞれ一行で示せ。』という宿題が教授から出された。当然まだ課題発表から一週間も立っておらず、具体的なプランなど出来ない中で道しるべをどう発見していくのか、どういう方法論で進むのかを示すよう指示が出た。
翌々日のプレゼンでは教授からは『どうやって誰に関わるのか。』『その価値はなにに基づいてるのか。』『そのプロセスはなにを持って次へつながるのか。』という質問が繰り返される。Whyを繰り返し、目的をより具体的にしていく。横道を削り取られていくような感覚であまり気持ちのいいものではなかったが、この理由が後に明らかにされる。

時間コストで測られる

それぞれのプレゼント質疑の後に、改めて一年間どう過ごしていくのかをチームで考えるよう宿題が出される。ただし、これは宿題でありながら企業、そして大学機関との"契約"になる。プロジェクト背景、目的と方法、ターゲットとなる範囲、鍵となる仮定、品質管理、ステークホルダー、リスクマネジメント、予算管理、評価方法といった9点を明文化し、企業と大学に提出する。これをすることで無駄な行動を削り、短い時間でイノベーションに達成しようと努力することが求められる。IDBMは時間管理が厳しく、この課題を落とす学生も多い。教授からは『だいたい半分の学生が進学できないよ。』という助言というなの脅しを受ける。どれだけいいイノベーションをするにしても契約の中で絶対に行わなければならないという"ビジネス"マインドを植えつける。時間コストとの戦いからは逃れられない。
ただ、これは昨年インクルーシブデザインナウのときに中坊壮介さんが『リサーチだけ時間をかけて行うが、デザインはドキュメントが上がって即結果を出さねばならずデザインリサーチの意味が無い。』とおっしゃられていたことを思い出す。まだプロジェクトは始まったばかりであるが、プロセスの中にきちんとラピッドプロトタイピングでフィードバックを得るような仕組みを取っていかないとリサーチばかり加速してしまい、成果物のプロダクトに反映されない危険性がある。最終成果物がシナリオ(文書)の提出ではあってもプロダクトを介したシナリオ作成として早い段階からデザインを含めた検討ができるような取り決めをしていくべきなんだろう。