サービスデザインから考える地方都市の豊かな生活、フィンランドの場合。

最近ものすごい勢いでサービスデザインの記事がネットに上がってきていますね。ロフトワークさんの記事*1と、棚橋さんの記事*2を僕は注目しています。サービスデザインはインタラクションやユーザーエクスペリエンスなど、どうしてもWEB周りで活発な意見交換がされているようですが、僕はまちづくりや建築計画の更新に援用していきたいです。景観や愛着をそのサービスに内包するストーリーを(ビジネスモデル)作ることで、これまでビジネスの観点からは評価の対象外だったものを再評価できるようになるのではないかと感じているからです。それは、トップダウンの公共政策や施設運用に大きな影響を与えるはずです。

今僕は四週間のショートプログラムを通して、地方都市の生活向上サービスの提案を行っています。ヘルシンキから電車で一時間ほど北へ行ったラハティという街のそばにある小さな町は、高齢化や過疎化が進みつつあり、公共サービスや医療福祉サービスがインターネットやモバイルサービスに変わりつつあります。オンラインサービスの利用が不自由な高齢者が困るだけでなく、若者も離れて行ってしまう、日本の過疎地とよく似た状況です。日本と異なり、福祉国家なので生活資金はきちんと受け取ることができ、国家から見放されることはありません。もちろん、医療サービスも無料で受けることができます。ただし、小さな自治体が単独で少ない住民のためのQoL向上サービスを提供し続けるまでは至っていません。そこに目をつけたフィンランド政府がMobilized Serviceの支援を始め、ビジネスモデルを含めた提案を産学連携で進めているのです。

そこで担当教官が今年のDesign Ethic Project in the department of Creative Sustainability のショートプログラムとして選び、サービスデザインコンセプトを提案することになったのです。期間はわずか四週間、授業は週に二日で10-16時です。当初はラハティ大学の学生らとワークショップをし、現状理解してから始めるスケジュールだったのですが、教授の都合で最後のアイディエーションを共に行うことになりました。しかし、これも少し違う形に…。

最初の一週間はケーススタディです。10名近くの学生がおり、フィンランド・オランダ・アメリカ・インド・台湾・日本と国際的なメンツだったので、それぞれが自国の過疎地をケーススタディしてプレゼンテーション。「インドは過疎化なんてねーよw」みたいな話をしていたのでぶったまげました。
話を聞いていくと、広告や観光産業に注力するところ、コミュニティデザインに注力するところ、オンデマンド福祉サービスに注力するところがあるようで、これは国が変わっても地域によって選択しているカードが違うだけのようです。

二、三週間はラピッド・アイディエーションです。アールト大学のストラテジックデザインの先生がファシリテーターとして参加し、一日で120個程度の案を出します。参加者が二分で一つのアイディアを出すくらいのスピードでバンバンA4用紙にスケッチをして行きます。30分後、一人10以上のアイディアが出たら一度手を止め全体でプレゼンテーション。これも一案45秒くらいです。全員のプレゼンが終わったら自分の作ったアイディアから二つ、他人のアイディアから三つ興味があるものを選び、それぞれ二つ発展した案を同じくらいの時間で考えます。ここも頭でなくて手を使うのが大事だよと繰り返し先生は言っていました。ラピッド・アイディエーションはクリティカルパスを描くのでなく、広がりと他者性を盛り込んで行く作業です。偏執を生まないためにスピードが必要なのですが、学部生くらいだと自分の案に固執してしまう子が多く大変なんだよね、というこぼれ話をしながら場の雰囲気を保つ先生(笑)
ここで生まれたアイディアはあくまで最終案への『補助線』です。たくさん生まれた案を元に、クリティカルな要素を抽出し、読み替えてまた新しい案を出して行きます。その練習をしたところで、それぞれ16枚くらいのオリジナル案を渡され、コンセプトデザインの制作を求められます。

今日はそのコンセプトデザインの発表がありました。他の学生作品は残念ながらデザインという基準に至っているものは少なかったです。それは、やはり『実際のリサーチをしていない。』ことによるものだと思います。サービスデザインは、クリティカルパスの立て方によることが多く、たくさんのアイディアから一本釣り出来るようなものではありません。ステークホルダーは誰か、利用者の生活実態は、サービスの経路はどこを通るのかなどなどデザインリサーチすることはたくさんあります。アイディエーションの中でうまく課題を見つけられた学生の提案(ツーリズムによる地域ブランディング)は想像しやすく面白かったのですが、ただ配役を与えただけのモバイルフードサービスは誰が重要なのか分からず、もう一歩踏み込んで考えたらいい案になったのになー、という感じです。複雑な関係を読み解き、ほぐしてまた新しい経路を見つけてそれをデザイン行為を通してサポートしていく。簡単なようで難しい思考が必要です。

f:id:pnch:20130306025216j:plain[コンセプトパースと背景説明]

僕はテンポラリーな空間利用とコミュニティの流動が起きる仕掛けというオリジナルアイディアから、レンタルビデオサービスと(空き)家の利用を提案しました。フィンランド人は映画が好きでレンタルビデオショップが増え続けているそうで、テレビ番組とは対象的に国内作品も多く撮られています。2012年は日本でフィンランド映画祭の告知をきゃりーぱみゅぱみゅと大使館の人?がやっていましたね。冬場は暗くなるのも早く、家でまったり映画を見ながら過ごすフィン人の友達も多いです。それだけ身近で、特別な記憶が映画とともにあるようです。
フィンランド人はイントロダクションで行った誰もが教え合う学校イベントレストラン・デイのようなイベントを楽しむ素質があります。あまりオープンでないと言われがちですが、人を嫌ったり、拒絶することはまずありませんし、仲良くなるポイントを見つけるとぐっと距離が近づきます。オープンなイベントに対して肯定的な考えをしていると感じます。そこで、イベントの期間だけ自宅で鑑賞会を開いたり、空き家を使ってインスタレーションと共に映像作品を鑑賞することをサポートしよう、というのが僕の提案です。

f:id:pnch:20130306025328j:plain[WEBサイト、招待状、DVDケースのコンセプトデザイン]

f:id:pnch:20130306025412j:plain[ステークホルダーとサービス経路]

ステークホルダーから重要な四者(参加者、プロバイダー、観客、アーティスト)を選択し、アクティビティの流れとサービスの流れを示しています。参加者は映画を借りることで告知サイトや招待状に記載される。この時、映画にまつわる特別な記憶をコメントする。アーティストは利用できる空間や機材貸し出しをプロバイダーに相談する。観客は告知サイトや招待状を頼りに興味のある映画や映像作品を見に出かけ、映画を通したコミュニケーションを図る。ここでしか見れない作品が増えると外部からの流入にもつながるかもしれない。後日、参加者やアーティストは機材や部屋をプロバイダーに返却する。参加者もアーティストもフィードバックが得られ、一人で映画を見るのとは違った経験をすることができる。大きな映画祭とのコラボレーションやプロジェクションマッピングなど外部の人を呼び込む方法も。こういう思考や提案が建築行為の中に浸透していくと、より具体的で豊かな生活を想像しやすくなりそうです。与えられた情報が建築の資料だけではないので、非建築の人も議論に参加することができるのではないかなと思います。

プレゼンテーションで難しいなと感じたのは複雑なステークホルダーの関係をどう話せばいいのかということです。一人ずつバラバラに話すとそれぞれの関係が見えにくいし、関係を重視して話すとややこしい。サービスデザインのプロジェクトは発表の仕方を工夫しないといけないなと強く思いました。せっかく見やすく関係図を描いてるので同じようにわかりやすく話すことが求められますね。。
教授からは極夜(真夏の夜中でも太陽が落ちない時期)はどうするんだというツッコミが入り、抜け落ちてる前提条件がありました。コミュニティや風土の話は直接体験したり、話を聞く中で認識できることなので想像の世界の前では脆いですね。改めて、デザインリサーチの重要さに気がつくことができました。当初「こんな風にプロジェクト進むかなー。」と考えていたものとはかなり違うものを提案しましたが、思いのほか建築的でまちづくり的だったことに自分でも驚きます。それだけサービスデザインの範疇が広いんだとわかります。

週末は延期されていたラハティ大学とのワークショップです。どんなことが生まれるのかな。

This is Service Design Thinking: Basics, Tools, Cases

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コミュニティデザイン―人がつながるしくみをつくる

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まちの幸福論―コミュニティデザインから考える

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*1:[連載]サービスデザイン Vol.1 サービスデザイン班、はじめました。 |2013 |株式会社ロフトワーク
http://www.loftwork.jp/ja-JP/column/2013/20130215_servicedesign1.aspx

*2:サービスデザインの本質-サービス全体の「構造としくみ」をデザインする (1/4):企業のIT・経営・ビジネスをつなぐ情報サイト EnterpriseZine (EZ)
http://enterprisezine.jp/bizgene/detail/4567