働き方を見いだせるか、サービスデザインの射程距離

プロジェクトが架橋に入り、残り1ヶ月程度となった。大学への最終成果物はA1のポスター、50秒のティーザービデオ、90秒のプロジェクトコマーシャルビデオだ。さらに、今年度からは展示会を執り行いそこで来場者らに向けた対面の説明を行うことが義務付けられている。自分たちの展示スペースも3m*3m*3mの中で自由に構成していいようだ。いい感じに息が上がってきているのを感じるが、教授がサバティカルで抜けている授業が邪魔をしてくる。日本でも「研究室が忙しい。」ということでプロジェクトに積極的に参加できなかったのと同じように「授業に忙しい」メンバーがいると思うように進行しないのが難点だ。また授業が面白く、プロジェクトのプラスになればいいのだが聞こえてくる感想は『a boring lecture…』だけだ。

僕は交換留学生のため、単位も必要ないのでこの授業はスキップしてプロジェクトと修士論文執筆のための活動をしている。先週末はコテージへ向かいアイディエーションワークショップを指導役の先生らと行った。これまでに複数のワークショップで制作していたペルソナ、アクティビティマップ、サービスブループリントを使って将来起きうるストーリーを描き出すものだ。将来の交通サービスを考える上でのタッチポイントはすでに多く見つけられていて、あとはそれらを繋ぎ合わせるストーリーやサービス周りを保管していくことが目標だった。複数のペルソナからそれぞれ個別の解答を推測するのでなく、複数のストーリーから共有できる関係を発見していくことが求められていた。指導役の先生らから当日に指摘が入り、スケジュールを変更し、予定した時間内にストーリーボードの作成までには至らなかったのが残念なところだった。

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[ワークショップの準備中]

このプロジェクトを通して、メンバーのみなと何がイノベーションなのか、僕達だから見つけ出すことができたストーリーとは何かを議論しあっている。メンバーの中には固有の提案を導き出せていないことに不満を漏らすものもいた。このプロジェクトの最終成果物はコンセプトの提案とストーリーを描くことでなにかプロダクトを提案するようなものではないにしろ、ストーリーの中にはまだ見たことない何かが必ず含まれているはずで、物自体がストーリーの一配役をになっていることはよく理解できる。ただ僕がそれ以上に注意してみているのは、その新しい何か、プロダクトであったりサービスであったりが生まれることでどのような人たちが未来の生活に参画できるようになるかということだ。それは利用者ということでなく、ビジネスを起こすもの、インフラ整備や法律などの制定も含めてである。

MAKERS(クリス・アンダーソン)という書籍の中で、デスクトップファブリケーションが技術やサプライチェーンに依存した産業構造を破壊し、新しい産業革命を引き起こすだろうと予言していた。3Dプリンターなどがものづくりの民主化を後押しし、受注と供給権力関係を崩していく。ここで生まれた歪(デジファブ機器、プラットフォーム、C to Bビジネスなど)にチャンスが詰まっていて、ここに新しい働き方を見出す人が多くいる。まだ見たことないプロダクトも、サービスも、ビジネスモデルがここに埋まっている。産業というこれまで強力な権力に支配されてきた構造を破壊するような物語の提案は、クライアントに新たなビジネスチャンスを予感させるだろう。これまでに行っていた定性的な調査で発見された、普段は見向きもされないであろう情報を拾い上げてまとめプレゼンをした時に得た感触からも、実感ができる。

このプロジェクトを通して僕たちは未来像を描くこととともに、新しい働き方を予期させるような提案をすることが求められているだろう。建築を見て「ここに住みたい。」、プロダクトを見て「コレ欲しい。」と思わせるような、物語を見てどうやってこの世界で働き、暮らすことが出来るのかを楽しく想像してもらえることが重要なんだろうなと思う。ものづくりにしてもまちづくりにしても、こうした新しい働き方や暮らし方を創造することが今とても求められていて、(このプロジェクトの対象は日本ではないけれど、)日本におけるイノベーションとは、新しいものづくりではなくて、新しい働き方の獲得を指すのだろう。デザインの示す範疇が広がっているのは、新しい働き方を見出そうとしているからなのかもしれない。

MAKERS―21世紀の産業革命が始まる

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This is Service Design Thinking: Basics, Tools, Cases

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