事務所のこと、有松のこと

2015年の8月末から有松にて、事務所として古民家を間借りしている。有松駅から徒歩3分、旧東海道に面したとてもアクセスの良い場所だ。2014年に行った「誰のための有松絞り展」をきっかけに大家さんと知り合い、お話をし続ける中で期間限定で間借りさせていただいている。

期間限定というのも、先日発表された有松が名古屋市内初の伝建地区に選ばれたことが大きい。このエリアがどのような保存、あるいは利活用の計画が発表されるのかまだわからない。名古屋市の外れに位置する有松は名古屋市緑区に属する。住宅地として名古屋市最大の人口、2番目に大きな面積を持つこの区域は、家族を持つ人にとっては手頃な価格の住宅を市内で手に入れられることで知られている。有松でさえ2016年の今もミニ開発が進行している。

有松のに中央から東側は昔ながらの観光地である有松鳴海絞会館があり、小売り店や飲食店も軒を連ねているが、私のいる中央から西側は大きな商店など古い建物が残っているけれど、空き家と思しき建物もあり、人通りはあまり多くはなかった。私は街道の両サイドに古民家が並び、それを横切るよう名二環の借景が1番好きだ。ところが、ここ数年立て続けにカフェやゲストハウスがオープンし、西側に流れる人通りも増えてきた。まだ多く残る古民家に新たな事業主が入れば、もっと面白い場所になると思う。

しかし、一方で課題も残る。有松の町屋は商店の町屋で非常に間口も広く、奥行きもある。浴衣や着物といった繊維産業の街並みのため、古くて大きな倉間であり、小さな資本や身軽な体で借りるには建物も面積も大きすぎる。最低4組程度のグループとなって借りるには、現状の不動産の仕組みではどんなマッチングになるかわからず手を出しづらい。一方で、大きな資本を持つ企業が入って来ればいいが、それもまた日常を脅かす存在だと快く思わない住民がいるのもまた事実だ。

その時に期待されるのが、事業主のマッチングや施設のコンセプトを描く家守と呼ばれる存在だ。北九州の空き家利活用が元になって始まった家守舎は、まちづくりリノベーションスクールと称し、空き家の利活用が期待されるエリアに出向いては短期間のワークショップ型プロポーザルを行っている。そこで実際に空き家のオーナーに気に入られればそのまま事業化に向けて動き出すという、非常に熱量高い活動だ。オーナーは気に入った借り手に貸し出すことができ、事業主は事業開設リスクを下げることができ、地域の人は空き家に起因する事件事故リスクを下げることができる。今まで各地で展開している家守舎の活動だが、有松の空き家と比べると小さな面積の空き家の利活用を行っているように思えるため、事業主を多く集めなければいけない有松ではすぐに応用することは難しいかもしれない。しかし、町ビルのテナント貸し出しのように、小さなビジネスをきちんと回す能力がある事業主やリアルの場所だけでなくインターネットなども活用した事業主と組めばその可能性は広がるかもしれない。

伝建築はあくまでもこのエリアの未来を考える一帯に過ぎない。この場所で事務所を構えたはいいものの、本当に持続的な関わりを持ち続けることができるのか見通しは立たない。ただ、自分たちの働き方や暮らし方が少しでも面白くなるような関係と環境をどこまで築くことができるのか、挑戦してみたい。