30年後から考える伝統工芸

2045年、少子高齢化の進んだ日本国は、細やかな気遣いと地域間の分業によって築き上げた輝かしい時代の産業から遠くの世界に届いていた。これまで1から10の段階を経て仕上げたものを製品と呼んでいたものづくりから、1から6で戦略的に途中でやめるものづくりにシフトしていった。残りの7から10は消費者やクリエイターに委ねられ、生産のシェアが実践されている。全体的な生産人口の減少に伴い、幼少期から生産教育が科目に加わり、図画工作や技術家庭科の授業時間が30年前より圧倒的に増えている。

生産する消費者として活動する人々(プロシューマー)の割合は先進国でもトップクラスとなり、メーカーはこぞってプロダクトアウトからマテリアルアウトへと体制を変更した。ホームセンターよろしくファストファッションブランドはそのカスタマイズ性を売りにし、衣服の部材やらしきものを取り扱っている。このマテリアルシフトの中で特に顕著なのが、かつてBtoBしか行って来なかったメーカーがBtoCに踏み切ったことだろう。この時代に製品として取り扱われているものにおいて、21世紀初頭のプロダクトとマテリアルほど差異がなくなってきていることにある。

そのため、かつては地方の手工業であった伝統工芸の再興が著しい。産業の中でブラックボックス化されていた製造や加工がオープンになり、作り手であり使い手でもあるプロシューマーたちは再び産地付近で生活をするようになった。伝統工芸の職人は相変わらず後継者不足で、問題は解決の糸口をつかめていないが、その年齢や能力でできるなかで生産し続けられるようになったことが大きい。

1から6の段階でユーザーの元へマテリアルが届くようになると、4から10にすることを手助けするようデザイナーの役割も変化していった。最終製品の展開可能性を示すとともに、マテリアルとなる前次元の素材メタ・マテリアルの開発から関わらなければならなくなった。このときに最も作り手と近い距離で製造、対話、試作を行える伝統工芸の世界は重要な領域のひとつとなった。私たち自身が生産に加わる、民主化された生産が伝統工芸のなかで達成されたことで、次の社会のものづくりの可能性が見えてきたようだ。大きな力ではなく小さな力を駆使して生まれる製造の進化を私たちは再び追いかけたい

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