はじめに。

このブログはPNCH(パンチ)ことKAKERU Asanoのブログです。主に建築やデザインを中心としたエントリーを書いていこうと思っています。よろしくお願いします。

■Profile
PNCH (パンチ)
1987年生まれ。男。フリーランスデザイナー・リサーチャー。京都工芸繊維大学大学院修了。CONNECTARIMATSU PORTAL; PROJECT共催。
連絡先 pnch.0924☆gmail.com (☆を@に変えてください。)
趣味 読書、DJ(Sbstrm)

pnchさんの読書メーターpnchの最近読んだ本

amazon ウィッシュリストを公開しました。勉学の支援を期待します。

デザインリサーチャーの1年目を振り返る

1周年に向けて昨年の仕事を振り返る。どこかに所属して働きもせず、2014年5月1日にいきなり独立した僕にまとまったお金の仕事など来るはずもなく、訳の分からなさを武器に「デザインリサーチャーです。」と半分真面目に半分冗談で答えてました。それでもこれまでの関係や友人の紹介で仕事にありつくことができ、大体毎月13万円前後の売り上げで、20万を超えたのはわずか2、3ヶ月くらいだったと思います。今もそれに毛が生えた程度ですが、下準備や下調べとしてのデザインリサーチの有用性を共有できた人たちとブレイクスルーの隙間が見え隠れする世界をひらいていくことが出来そうです。

当初、仕事のひとつは企業のブランディングでした。カタカナで書くと経営にも関わる企業イメージの大枠を定めるようで響きがいいけれど、実際は広報物の提案・制作、一時的な展示スペースの企画、事務所などの大掃除、WSの提案に運営補助、営業や総務的な動きもしばしば。ここではミクロな活動にぶつかったおかげで中小零細製造業の一端を理解することができ、短期的なブランディングや広報は首を締めるだけだなと分かりました。会社案内と言う名のメディアをどうつくることができるのか、それが小さなスケールでもどう企業活動を広げるのかばかり考えてました。今後はより企業の広報物とユーザーの関係に重きを置いたメディアづくりを企画しています。

また、下請けも含めて編集構成、文字起こしのお仕事を10本ほど。有松で行われたイベントの広報ディレクション、書籍やフリペになった(なる予定)のものも。どれもこれまでの関係や自主プロジェクトARIMATSU PORTAL; PROJECTで開催したトークイベントなどをまとめたフリーペーパーがきっかけです。マネージャーを務めるDESIGNEASTにしろ、こうした活動がある意味営業となり仕事に繋がるのが改めてわかりました。何にでも興味を示して話を聞くおせっかいさが功を奏したのか企画から関わらせてもらえるものもあり、東海エリアの学生と「産業と教育をつなぐ」メディア、さらに国際的な「防災とコミュニティ」メディアの企画に参加させていただけることになりました。東海はメディアがないと揶揄されるだけに、ただ企画するだけではなく持続的な仕組みと若手を育てる雰囲気を醸成できればなと思います。

フリーで始めたばかりから、リサーチの仕事も不動産に関するものを2件ほど受けてました。こちらは下請けのため世に出せないですが、普段はあまり積極的に実施しない定量的な調査だったのですが、契約やレギュレーションについて勉強になるところが多かったです。
昨秋以降は福祉施設との協働によるポンチョの開発PJのディレクションがきっかけとなり、「GoodJob!」展への出展、3つのセミナーでの登壇に繋がりました。修士研究から続いたインクルーシブデザインにこうして仕事を始めてからも携われるのは本当に嬉しいです。ようやくここからデザインリサーチャーらしい活動が本格化しだしたと実感。現在は、障害者福祉施設と高齢者福祉施設の2つのデザインリサーチを実施しています。どちらもスタッフと利用者の相互関係と埋没された創造的な実践の抽出をきっかけに、新たな事業展開への応用を考えるものです。前者では結果をもとに試作を作るWSを設計して提案したり、現場オペレーションといったより具体的なシナリオや新事業のイメージが求められています。このように僕がデザイナーとして動くものもありますが、高齢者福祉施設のPJでは建築家とグラフィックデザイナーがリサーチの結果や過程を共有してつくりだしていくものです。僕がスタッフと利用者の実情を前捌きし、きちんとバトンタッチしなければならない別の責任があります。どちらもオープンまで2、3年程度かかるのでゆっくりと経過を追いながら、デザインリサーチをもとにした魅力のカタチ作りと発信に協力していきたいなと思います。

定性的なデザインリサーチをもとにした福祉とデザインの組み合わせがこれまであまり日本に根付いていないためか、GoodJob!以降、ご相談いただくことが増えてきました。何件かお話を聞く中で、「ものづくりを一緒に行うデザイナーはどう探せばよいのか。」「デザイナーに何をどうやって頼めばいいのか。」と尋ねられることも少なくありません 。「それならお任せ!」と言いたいところですが、課題や状況がそれぞれのため、一足飛びに回答へはたどり着けません。そんなときに一体何が課題なのか、自分たちの魅力はどこにあるのか、誰に向けて何を伝えるのかを一緒に考えることができる立場にありたいなと考えています。

これは福祉だけではなく、僕がこの1年間で経験してきた製造業やまちづくりでも構造は同じです。長年の経験で無意識に見落とされがちな何かと何かの間にあることを拾い上げ、潜む物語や価値を体験する仕組みをともにデザインする。ただ要件を整理してかたちを与えるのではなく、調査を通して企画にまで遡る。もしくは、企画をともにつくるところからデザインを考える。それがデザイナーではなく、デザインリサーチャーなのだと僕は自信を持って答えたいです。

これまでの実践を糧にまだまだ踏み込んでいない領域に潜り込み、実践を繰り返してデザインリサーチャーとしての資質を高めたいです。2年目はどんな年になるのかとても楽しみです。

 

インクルーシブデザイン: 社会の課題を解決する参加型デザイン

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「インクルーシブデザイン」という発想  排除しないプロセスのデザイン

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誰のためのデザイン? 増補・改訂版 ―認知科学者のデザイン原論

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ノンデザイナーズ・デザインブック [フルカラー新装増補版]

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建築家なしの建築 (SD選書 (184))

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アート化セミナーの資料『はじまりを捉え直すためのデザイン』を公開しました。

2015.2.22に奈良県にある社団法人たんぽぽの家が主催する「アート化セミナー」の<工程をデザインする>セクションで、poRiffの薮内都さんとUMA/ design farmの原田祐馬さんとお話をしてきました。その際に僕がプレゼンで使った資料を下記に公開します。


登壇前に部族長のようになってしまったのはここだけの話…

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障害者とのものづくり、工程をデザインするpoRiffの取り組み

http://poriff.com/index.jpeg

本日はたんぽぽの家が主催する『アート化セミナー』にてpoRiffの薮内さんと「工程をデザインする』パートでプレゼンをし、UMA/ design farmの原田祐馬さんも交えてのクロストークに参加しました。poRiffの話が非常に面白かったので、ツイートを元にメモをば。

poRiff(ポリフ)は、ビニールの買い物袋を細かく裂いた1万ピースをコラージュし、アイロンで熱溶着してつくるシートを使ったプロダクト。薮内さんは3つの施設(就労B型、生活介護)で非常勤勤務をしながら障がいのあるひともつくることが出来る工程をデザインし、彼らとプロダクトをつくっている。こうした活動ができるのは、施設でpoRiffの商品を作っているだけでなく、制作や展示を含めたアート活動、施設の広報物制作、展覧会の企画運営、自主製品の開発や施設外のデザインなどを兼務しているからだそうだ。poRiffとしては、他の施設や展示会場でのワークショップの企画運営と作業工程の設計を行い、営業活動・販売管理と新商品の開発なども行っている。前者は支援、後者は技術提供という複眼的な視点で幾つもの業務を並走させている。

poRiffは様々な障がいを持つひととものをつくるため、いくつかの簡単な工程を複数の利用者で分業している。まずはメンバーが地域のさまざまな場所から素材となるビニール袋を集めてくる。担当の利用者が集めたビニール袋をまっすぐに伸ばして色分けをし、素材の加工によって分類を行なう。ここからハサミが使える人にバトンタッチをし、ビニールを細かく裂いていく。poRiffの特徴的な柄を出すためにサイズが異なる3つのピースを切り出していく。切り出したピースからベースとなる大きいもの、差し色となる小さなピース重ねてアイロンを掛けて大きなシートを作成する。大きいピースと小さいピースの選定者を交代させることで人為的にランダムな柄となるそうだ。早ければ2日間、長い人は2週間かけてシートをつくる。そこからプロダクトの方に合わせて切出し、ミシンを掛けて、商品の完成。シンプルな工程のため、ワークショップの後にパクられたり、改変されたりすることもあるそうだが、ピースのサイズ調整やアイロンがけのタイミングなど、いくつもの試行錯誤の上に成り立っているので表面的なマネはできてもあの特徴的な柄のプロダクトをどこでも作れるわけではないだろう。

当時、芸大生として「人と違うようにあれ」と教育されていた薮内さんは、福祉施設へ出入りする中で健常者ができることを利用者ができるように「させられている」ことに衝撃を受け、デコボコなそのままを認めることをテーマにしたそうだ。こうして開発に1年の期間を有してようやく市場に出回るようになったpoRiffの販路が増えてくる中で、テーマを再考する「poRiff exhibition2014 STANDARD WO UTAGAE!」を実施した。poRiffで何をしているのかなど各利用者さんの日常を切り取るような質問をし、どんな受け答えをしてどのような回答を得たのかを展示した。利用者とのコミュニケーションは発話のほか、筆談や身振り手振りといったものもあったようだ。個人的に注目したいのは、利用者とスタッフにカメラを渡して普段の生活を撮影してもらうというリサーチ。利用者とスタッフと薮内さんが築いてきた関係がよく現れていることだけでなく、薮内さんの創造を超えた超日常的な所作が表出していたからだ。

この展示を通して、薮内さん自身を含めた鑑賞者の価値観や常識が揺さぶられることを期待したという。つくれる、売れるといったことが利用者のモチベーションに影響している。彼らの個性を活かして作れるためにはその特徴を浮き彫りにし、さらに、居場所や働き方に合わせていく調整が求められる。色を見分けるのが苦手な利用者には、カラフルな素材から白黒の素材に変更してツートーンのシート素材を開発した。出来上がったシートの質の高さを褒めてるうちにもっといいものを作ろうと総ドットのバックができあがり、市場でも好評だったのでそのまま正式な商品化につながったと言う。利用者自身がどんな人になりたいのか個性を尊重し、豊かな時間過ごすことができる環境がそこに出来上がっている。

改めて話を聞いてpoRiffの凄さを理解することができた。3つの施設をはしごして製造管理、営業、施設の広報物のデザインまでこなす彼女の横断的な才能に驚きを隠せない。利用者の特徴を引き出すために柔軟なデザインプロセスを念頭に置き、日常の所作から作業を引き出そうとする姿勢はデザインリサーチとオーバラップしており、「ここも共通点あるやん!」とうなずくばかりでした。私も講師としてお話させていただきましたが、彼女や他の講師の話は非常に勉強になり、私自身もとても学びの多い機会となりました。
poRiff

poRiff


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街とブランドの調度良い関係、「FAMILY OF NIESSING」展 名古屋にて

ジュエリーブランドNIESSING(ニーシング)の本社があるドイツ・フレーデンの街やそこで働く人々の姿を写真に収めた本展が名古屋・伏見で開催された。展示に合わせて写真家の濱田英明さんと本展示ディレクターの岡田栄造さんのトークイベントも2015年1月23日に開催されるとのことで出向いてきた。数百枚の写真の中からニーシングらしさが現れた写真をピックアップし、岡田さんと濱田さんが"らしさ"についてコメントを付け加えていく。「いくらでも話せる」と両名がおっしゃられていたように、装飾(デコレーション)装置としてではなく、機能と意匠が統合したプロダクトとしてデザインされているバウハウスを背景に持つ本ブランドが生まれる過程から多くの発見をすることができた。

2013年、建築家・中山英之さんがデザインした微細な彫刻加工が施されたリングのデザインが本プロジェクトのためディレクターに岡田さんを迎えたニーシングから発表された。今回と同様に開催されたトークイベントで、中山さんは工学的な構造とシンプルでも力強い意匠について興奮気味にお話されており、ドイツブランドの持つ質実剛健な印象が残っていた。今回の写真展ではデザインが生まれる環境に注目したことで、その印象とは全く異なり、ブランドと地域との関係を知ることができた。

寡黙で厳格な男性が磨かれた手の感覚を頼りにつくりだす姿ではなく、カメラに向かってにこやかに笑いかけたり、自分たちがつくったであえろうジュエリーをさり気なく身につけていたり、着飾らず主張しすぎない姿が写真から読み取れる。そうした職人やデザイナー、経営者らは、暖かな日が差し込む窓辺で作業していたり、緑があふれる敷地内に工房があったり、かつて使っていた道具が何気なく身近においてあったりとヒューマンフレンドリーな環境で働いているようだ。職場と自宅が近いので自転車で食事を摂りに帰宅するというのも家族との時間を大切にする欧州らしさを感じる。

街にはニーシング関連の彫刻もあるようだが、人工物と自然物の調和にデザインのインスピレーションを置くという話からは、ブランドと街・生活との適度な関係が読み取れる。少し歪んだ天然木をうまく組み合わせて外装材とする建物をさして「あれがニーシングらしさだ。」と説明する。フレーデンを歩けばニーシングを感じ、ニーシングを身に付ければフレーデンを感じるのだろう。中山さんのプロダクトからはニーシングの真面目さと技術力の高さを垣間見ることが出来たが、濱田さんが見せてくださったたくさんの写真と両名のお話からは、国内に多数ある産地と地域の将来像を考えるヒントがたくさんつまったものだった。