ハンドブック、ガイドブック、プレイブックの違いから見るコミュニティの実践とは

ハンドブック:特定のトピックや対象に関する包括的な情報(ルールや規定など)をさっと調べる時に参照する公的な様相も持つテキスト。
ガイドブック: 特定の業務やプロジェクトに関する効果的な手順などの情報をまとめ、目的達成に向けた専門的なテキストの一種。
プレイブック:特定のシナリオや状況に対する行動計画や戦略が長年の経験則に基づいて書かれたテキスト。
(リンク先はオックスフォード英英辞典)

つまり、(組織やコミュニティにおいて)公的な情報をハンドブックにまとめ、ガイドブックで大局的なハウツーを共有し、具体的な事例をまとめたプレイブックを参照しながら実践をおこなうといった具体のレイヤーで使うようだ。

92年に改正された都市計画補に則る従来の都市計画では、人口増加や景気拡大を背景に各市町村のマスタープラン(基本計画・基本構想)が描かれ、計画に基づいた予算配分と事業が個別に展開されてきた。インフラなどの整備は目的や目標も明確に設定され、いつまでに何をすべきかといった都市仮題や政策課題を広く共有することができた。一方で、2010年以後に本格化する人口減少に突入する中で、市民のニーズと政策課題の乖離が各所から指摘されている[*1]。持続可能な上意下達の計画主義でPDCAのようなマネジメント・サイクルを回す組織の主体性を重視するアプローチから、不確実性の高い時代においてあらゆる参加者を巻き込みながら実験を繰り返す行動主義的なアプローチへと変革が求められている[*2]。

そこでハンドブック(計画)からガイドブック(行動)へと漸進的にして共有するして実行するのではなく、プレイブックから作成して出てきたアイデアや実践をハンドブックやガイドブックへと整理し直すアプローチへと展開しているのだろう。組織やコミュニティの価値観などの変化を観察しながら実行するチェンジ・マネジメント・プロセスが含まれているデザイン手法(トランジションデザインやシステミックデザインを始めとした)も同時に出現している。あるいはバックキャストティングやSF思考といったアプローチも仮説的に事例や環境を、先回りして具体化し、ある種のプレイブックとして検討しているとも考えられる。

こうした実践は世界中でおこなわれており、EUもタコツボ化した組織運営を批判的に乗り越えるために「The Communities of Practice Playbook :A playbook to collectively run and develop communities of practice」を作成し、共創を促すために経験則の採集と科学的な見地の統合を目指している。その成果の一つとして「コミュニティ・オブ・プラクティス・サクセス・ホイール」が作成され、どのような場面で活用することができるかをロードマップとしてまとめられている。

コミュニティ・オブ・プラクティス・サクセス・ホイール

コミュニティ・オブ・プラクティス・サクセス・ホイールの構成要素
1.ビジョン(VISION)- コミュニティの存在意義は何か、コミュニティが達成したい目標は何か、それに対応するSMART目標は何か。
2.ガバナンス(GOVERNANCE) - どのように協力し、誰とどのように意思決定を行うか?
3.リーダーシップ(LEADERSHIP)- 当事者と利害関係者の両方による強力なリーダーシップの参加をどのように確保するか。
4.招集(CONVENING)- あなたのコミュニティにとって、どのような招集の機会が有効か。
5.協働と協力(COLLBORATION AND COOPERATION)- 具体的なコミュニティの知識資産や成果物を提供するために、どのように様々な協働や協力のプロセスを共創し、調整しますか?
6. コミュニティの管理(COMMUNITY MANAGEMENT) - ダイナミックでハイブリッドな、そして同期的なコミュニティ間の交流をどのように促進しますか?
7.ユーザーエクスペリエンス(USER EXPERIENCE) - 設定されたタスクを遂行し、メンバーのニーズをサポートしながら、どのようにメンバー中心の体験を確保しますか?
8. 測定(MEASUREMENT) - コミュニティの活力を理解し、測定し、そこから何を学ぶか?


新型コロナウイルスが5類へと移行してからすでに数ヶ月が経ち、感染者の増減が継続的に報道され続けている一方で、人口減少や気候変動といったすぐに解決できない課題に対して、わたしたちはどのような社会を、事業を営むのか、判断が困難な場面に直面している。一国や一企業、あるいは一人の代表者にその責任を押し付けるのではなく、一人ひとりが対話し、実験的な取り組みをおこなう関係へとならざるを得ない。地域に根ざした活動をしている、物理や仮想空間にとどまらないローカリティや土着性を考える上で、プレイブックの存在は参加白のある活動を後押しするカギとなるのだろうか。


参考文献リスト

[*1] JSURP まちづくりカレッジ「⼈⼝減少社会を読む」特別企画『マスタープランは必要か? 』小泉秀樹、村山顕人、高鍋
https://s9712ee2cb616e067.jimcontent.com/download/version/1509003429/module/11638632812/name/%E2%98%85%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%83%9D%E3%82%B8%E3%82%A6%E3%83%A0%E8%A8%98%E9%8C%B2%EF%BC%88%E5%86%99%E7%9C%9F%E6%B7%BB%E4%BB%98%EF%BC%89171025.pdf

[*2]吉村 輝彦. (2019). 地域まちづくりのプロセスデザインの今後. 日本福祉大学経済論集, 第59号
https://nfu.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=3329&item_no=1&attribute_id=22&file_no=1