『居座り続けるための設え』としてのリノベーション

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国土交通省が定めた指針によると、空き家とは居住など定常的に使用されていない状態が1年以上続いた建物であるという。物置として使用していようが、イベントで1日2日貸していようが、使用者がいない限り、その建物は空き家として認識されてしまう。文字通りの空っぽの家ではなく、使用者が長期間不在の家であるということだろう。

そうした空き家が総務省の発表で80万戸以上全国にあり、全体の住戸数の10%を超えている。さらに称し高齢化がこのまま進むことで、20年後の2033年には全体の30%にあたる200万戸が空き家になると野村総合研究所が発表した。饗庭伸さんの「都市をたたむ」では、高密度都心部における空き家が顕在化するとスプロール化ではなくスポンジ化を引き起こし、行政サービスや資本が縮小していくことに警鐘を鳴らしている。本書でも実践されているように、中規模の都市である程度集まって暮らす方法が日本国内で求められているようだ。

空き家問題には当然、空き家を管理するものと空き家を使用するものに分けられる。前者は大家やオーナー、不動産管理会社などの地権者であり、後者は借り手のような権利的には弱者な者たちだ。空き家問題が都市計画の中で取り上げられている背景には、課題が建物だけではなく治安や社会福祉といった社会サービスにまで及ぶからであり、決して、自由な生活スタイルを支持するためのものではない。
一方で、後者の借り手や使い手は、自分たちで建物の修繕をすることを楽しんだり、手間はかかるが相場より低い金額で借りることができるため、行政きな支出を圧迫する空き家問題ではなく、自分の生活の延長の中に捉えている。複雑に構築された不動産産業の中でブラックボックス化された、建築に関わることをもう一度取り戻す「民主主義的な活動」に知らずのうちに参画しているのではないか。先に触れたスポンジ化したエリアでは、リノベーションによって開かれた環境はシェアハウスやお店など、交流を引き起こし、次の活動を引き起こす手かがりとなる。

つまり、ここで触れる空き家問題におけるリノベーションとは、行政や所有者などの地権者がもつ絶対的な権利を借り手や住まい手たちの創造的な実践によって、全体へ分配する方向に働く行為だと言えよう。欧米諸国ではクリエイティブ資本論スクウォッティング支援運動が議論されているように、日本国内でも「ヒップな生活」のためのリノベーションではなく、暮らしを手に取り戻すことを議論することが必要ではないだろうか。その時、原状回帰義務や定借期間契約などは権利を保つささやかな抵抗に過ぎない。少子高齢化が過剰なまでに進行する将来の日本において、リノベーションによって引き起こされる建物の民主化は、共生社会の礎えになるだろう。そのときに私たちは「居座り続けるための設え」をどのように社会にデザインすることができるだろうか。

デザインリサーチャーへのインターンとは

本日は春休み期間中にインターンとして事務所に来ていた学生3名と打ち上げに。昨年度は秋の平場と春休みの二回、実験的にインターンの受付をしてみました。それまで、バイト的な手伝いで来てもらったことはあるのですが、継続的な取り組みは今回が初めてです。今回の取り組みは下記の通りです。

秋学期中のインターン概要
期間: 9月から週1日の3ヶ月間 10:00-17:00
人数: 3名(デザイン学科2名〈B3, B4〉、法学部1名〈B3〉)
報酬: 1〜1.5万円/月
内容: デザインリサーチ補助業務(WSの下準備、ブレスト、データ整理)、編集業務補助(文字起こし、原稿整理)、デザイン業務補助(事例採集、レイアウト作成)など

春休み中のインターン概要
期間: 3月から週2日の2ヶ月間 10:00-17:00
人数: 3名(デザイン学科1名〈B4〉、建築学科2名〈B3, B4〉)
報酬: 1.5万円/月
内容: デザインリサーチ補助業務(WSの下準備、ブレスト、データ整理)、編集業務補助(文字起こし、原稿整理)、デザイン業務補助(事例採集、レイアウト作成)など

おおよそ1日の流れ
1000 事務所入り、室内外の掃除
1020 本日の作業共有
1045 作業開始
1150 進捗報告+フィードバック
1200 昼休憩
1300 作業開始
1500 進捗報告+フィードバック、おやつ休憩、デザインの話をあれやこれや
1545 作業再開
1630 進捗報告+フィードバック、次回のスケジュール確認、掃除
1700 解散

どちらもデザインリサーチの基礎となる部分を対面で教えていく形になります。ワークショップ設計の下準備では、「なぜやるのか」「どのようにやるのか」「なにがひつようか」を一緒に考えたり、出てきた質的データの分析・整理(=文脈の理解)をともに行います。それをもとにブレストを行い、コンセプトの立案やサービスデザインの設計といった事業計画の策定(=物語の構築)を行っていきます。インターン生は主にブレストからデータ整理の初期まで(文字おこしやデータ化まで)を行い、そこからは私が継続して、概念化を進めていきます。

編集補助業務は、デザインリサーチ補助業務でも行う文字おこしや初期編集を担当してもらいます。編集はデザインリサーチでも重要な概念で、物事の骨格を探りあて、アウトラインを明らかにする作業です。複雑な情報を精錬し、新たな発見を生み出すカタチ(=テキスト)を与えることが大切です。ARIMATSU PORTAL; PROJECTのサロンで行ったイベントの文字おこし原稿2万字から6千文字へ編集してもらいました。そこから3000文字まで、私が引き継いで行います。実際に編集した原稿をリアルタイムで共同編集し、編集方針を伝えることもしていました。
デザアン補助業務では、ベタに事例採集やラフレイアウトの制作をお願いしていました。また、プレゼン資料制作補助も含まれます。事例最終では、単にたくさんの数を集めるだけではなく、プロジェクト概要を理解した上で最終し、事例を分類してネーミングをつけ、比較することができる状態にまで仕上げてもらいます。

今年度はこうした作業を外注するカタチでインターンを行ってもらいました。自分自身の経験として、「有給」であること「対話をしっかり行うこと」を意識して行ったのですが、僕自身も「支出として」みるのでしっかりと時間内に決められた作業を遂行してもらう方法を考えたり、コミュニケーションの質が上がるようになるべく平易な言葉遣いを心がけていたなど、自分自身の学びになることも多かったです。
両期間とも参加したインターン生からは、「週1は前の作業を忘れてしまいがちなので、週2くらいでは継続してやれているようでちょうどいい」ということや「固有名詞がカタカナばかりで、ついていくのが必死だった」ということを指摘されました。確かにデザインリサーチやその周辺のデザインの動きは日本語化されておらず、そのまま使っているからなのかもしれません。また、別々の期間に参加していた学生それぞれからともに「緊張する」や「圧力を感じる」という発言があったのが印象的です。もう少しのびのびとしてもらえたらと思ったので、この点は改善点ですね。

デザインリサーチャーにインターン募集をする理由を問われたのですが、デザインリサーチャーを増やしたいと思うのもそうですが、それ以上に、共通の言語で話ができる専門性の高いデザイナーや建築家を見つけたいからかもしれません。デザインリサーチャーとして最終提案まで持ち込むことはありますが、自分が必ずしも作らなければいけない場合を除いて、専門家にきちんと任せられる仕組みを作るべきだと思っています。外注先ではなくパートナーを増やすイメージですね。

建築家やデザイナー事務所でのインターンとは異なる様相が伝われば嬉しいです。(売れっ子に比べて)仕事が少ないタイミングだからこそ、手取り足取りできているのかもしれません。この機会を通して、デザインリサーチャー、デザインリサーチャー的な活動の理解に努め、未来のスタッフを探していきたいと思います。次回のインターン募集は夏休みごろを想定していますので、twやfbの投稿をご確認下さい。

(1)デザインリサーチャーという働き方がわかる書籍

デザインリサーチャー、デザインリサーチと耳慣れない言葉。「デザイン+リサーチ=デザインリサーチなんでしょ。」と思っている方やデザインや建築を学んでいるけどデザインの根拠を探すことに迷いがある方、また逆にマーケティングや教育を学びつつデザインの可能性に興味を持っている方。そんな方々にデザインリサーチ、デザインリサーチャーのイメージがある程度つかめられる、日本語の書籍を紹介します。今回の入門編となる第1回はデザインリサーチャーの働き方や意義がわかる書籍を紹介。 

 

サイレント・ニーズ――ありふれた日常に潜む巨大なビジネスチャンスを探る

サイレント・ニーズ――ありふれた日常に潜む巨大なビジネスチャンスを探る

 

 

国際的なデザインファームのデザインリサーチャーによる1冊。大きな枠組みから技法までこの1冊で掴むことができます。事例もあるので読みやすく、巻末の「デザインリサーチの8原則」は、片隅に置いておいて損はありません。 

 

デザイン思考が世界を変える (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

デザイン思考が世界を変える (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

 

 

同じくデザインファームIDEOが提唱したことで大きく話題となった「デザイン思考」を理解する1冊。観察調査をベースとしたリサーチがデザインの標準となったのも彼らの功績が非常に大きい。対象となるユーザーに徹底的な観察調査を行うIDEOがその方法を獲得した背景が理解できます。

 

リバース・イノベーション

リバース・イノベーション

 

 

先進国で開発され、コモディティ化された製品が途上国に行き渡る。といった、トップダウン的なデザインではなく、途上国だからこそ生まれたユニークな製品を発展させて先進国へ逆輸入させるリバースイノベーション。今では当たり前な無線マウス開発には、途上国でのリサーチがなければ生まれなかった可能性があるなど驚きの内容。

 

世界を変えるデザイン――ものづくりには夢がある

世界を変えるデザイン――ものづくりには夢がある

 

 

なぜデザインが必要なのか――世界を変えるイノベーションの最前線

なぜデザインが必要なのか――世界を変えるイノベーションの最前線

 

 最後の2冊はまとめて紹介。今では当たり前に聞くようになってきたソーシャルデザイン、コミュニティデザインはここから生まれた。途上国の課題を先進国で発想する方法は先述の通り、コスト的、教育的、技術的な理由なら持続的ではないケースが多かった。そこで、途上国の課題を途上国で見つけ、途上国の人と解決方法を探り、途上国でその手立てを実装するプロジェクトを紹介する。

なぜデザインリサーチなのか 

さて、今回紹介した5冊は現在進行形で発展するデザインリサーチのこれまでを理解する手がかりとなるでしょう。読み進めるうちに似たような概念や方法論、思想があることに困惑するかもしれませんが、まずは気にせず全体像の把握をすることが大切です。「なぜデザインリサーチが生まれたのか」を理解した上で、方法論や学術的な位置付けを追うことが大切です。読み進めながら、「なぜデザイナーでなく、デザインリサーチャーと固有名詞を持つのか。」考えながら読むことをおすすめします。

デザインリサーチャーとして働きたいあなたへ

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AXISでデザインリサーチが特集された2000年のvol.88、そして、アドバンスト・デザインリサーチととして元RCAのアンソニー・ダンが特集された2009年のvol.142が発行されてから、すでに15年以上の月日が流れています。まだ「デザインリサーチ」という活動や「デザインリサーチャー」という職業が日本一般化しているとは言えず、2016年の今でも「新しい働き方」として、僕自身声をかけられることがあります。しかし、私もフリーランスのデザインリサーチャー、サービスデザイナーとして活動し始めてそろそろ3年目を控えているのですが、情報を編集し、新たに構成し直す設計者としてのデザインリサーチャーに少しばかり感心が集まってきていると感じます。大変光栄なことに講師としてお声がけされることやデザインリサーチャーとして働くにはどうしたら良いのかと質問を受けることがあります。デザインリサーチャーとしてすでにご活動されている方々には恐縮ですが、私の知る限り、デザインリサーチャーとして働く企業や環境がどういったところにあるのかご紹介いたします。

まず、「デザインリサーチャー」として働くか、「デザインリサーチャー的に」働くかという観点で分けて考えてみます。前者はきちんと「デザインリサーチャー」を募集し、あるいは名乗りを上げて働く方法でありますが、後者はそうではありません。研究職や企画、あるいはデザインなどの所属として「らしい」働き方をすることです。日本では後者のほうが圧倒的に多いことを先に触れたうえで、まずは「デザインリサーチャー」として働く方法を紹介します。

デザインリサーチャーとして働く

デザインリサーチャーとして働く殆どの場合、組織の一員としてプロジェクトに関わります。さまざまな背景を持つ参加者らとともにひとつのゴールに向かって活動する、その前提となるデザインリサーチを行うことに責任が発生します。リサーチが元になり、各工程でのフィードバックを得ることで共創(co-design)に繋がり、プロジェクトに、これまでにない洞察を持ち込む重要なポジションといえるでしょう。さて、そのようなデザインリサーチャーとしての働き方は、下記のようなものが挙げられます。

1)国内のデザインファームでデザインリサーチャーとして働く
あまり知られていないかもしれませんが、日本でもデザインリサーチャーを募集している企業は存在します。例えば、先日はGKデザインがデザインリサーチャーを募集していましたし、takramでもデザインリサーチを行うサービスデザイナーを募集しています。また、古くから国内でデザインリサーチを実践しているトリニティ株式会社などもあります。いずれも狭き門ではありますが、数少ない国内企業でのインハウス・デザインリサーチャーです。ほとんど事業内容はわかりませんので、学生はインターンなどで内部に入り、その実態を見定める必要があります。国内外の企業から業務委託を受けているケースが多く、それに合わせてリサーチャーやデザイナーなどとチームを組んだ活動をするのではないでしょうか。

2)外資系デザインファームでデザインリサーチャーとして働く
日本国外の支店で働く場合(でなくても)、英語で流暢なコミュニケーションできる能力がほぼ確実に求められます。外資系デザインファームで日本に支店をおいている例では、IDEO TOKYOなどが挙げられます。また、プロジェクトごとに上海などの支店が日本国内でデザインリサーチをする際に、新たにメンバーを募集するケースも有ります。外資系デザインコンサルタント会社では、frogflamingo、などがありますが、メーカーの研究所では、マイクロソフトリサーチノキアリサーチセンターもかつてデザインリサーチを牽引した組織として知られています。

3)デザインリサーチャーとして名乗りを上げて働く
デザインリサーチャーは士業ではありません。デザインリサーチという分野になにがしか関わり、質的調査とデザインに従事していた人はフリーランス、あるいは企業することでデザインリサーチャーとして働くことができます。大学院修了後、すぐに個人事業主として活動を始めた僕はこのケースです。ただし、キャリアも人的ネットワークもなければ、仕事を獲得することはできません。その一方で、クライアントに左右されない独自のプロジェクトを行うことができるのが魅力でしょうか。

デザインリサーチャー的に働く

4)経営コンサルタントで「デザインリサーチャー的に」働く
5)ITコンサルタントで「デザインリサーチャー的に」働く
6)広告代理店で「デザインリサーチャー的に」働く
あるいは○○総研のような研究所で「デザインリサーチャー的に」働くこともこのケースに含まれるでしょうか。強みである要素、戦略コンサルであれば事業戦略計画の一環で、マーケティングリサーチに加えて現場調査や事業計画を考えることを行うでしょう。また、ITコンサルであればユーザーリサーチやインタラクションに関するリサーチを、広告代理店では、ブランディングの一環でデザインリサーチャー的にブランディング事業に従事することです。いずれのケースでも質的/量的な調査を行い企画立案するところまで行うでしょうが、試作することや実際に落としこむところまで責任を持ってやることは稀だそうです。自分たちでデザインはやらない、やれない。その代わり、デザインパートナーに外注し、リスクと責任をきちんと管理している点がデザインリサーチャーとしての違いでしょうか。

7)アカデミックポストで「デザインリサーチャー的に」働く
大学の先生として学生を率いて、質的な調査やデザインを実践的な教育の中で行う人たちです。芸術博士だけでなく、工学博士のひとも含まれ、切り口はデザイン・デザインマネジメント、教育、社会科学、文化人類学などさまざまです。デザインリサーチに焦点を当て、道具の開発や理論の研究を行う方もいますし、プロジェクトの省察からデザインリサーチ手法やデザインが社会とどのような関係を育んでいるのか研究します。ある意味では最もピュアなデザインリサーチャーなのかもしれませんが、研究職としての本業があるので、あえて「デザインリサーチャー的に」働く分類としています。

どのようなポストで働くのか

これまで紹介した働き方は、2016年3月現在のポジションです。僕が留学をしていた北欧では、友人がデザインリサーチャー/サービスデザイナーとして、社会福祉やその他の行政サービスのデザインに関わっています。これまでの製品開発ではカバーしきれていない行政サービスを開発するにあたり、今までにない洞察や知見をもたらすポジションとしてデザインリサーチを行っているそうです。また、サービスデザインを主たる業務とするデザインコンサルタント企業もこうした取り組みを始めています。もしかしたら近い将来、行政の中で分けられた部局に横ぐしをさす存在としてデザインリサーチャーが活躍する日も遠くないのかもしれません。

ざっくりとした内容ではありますが、デザインリサーチャー、あるいは、デザインリサーチャー的なポジションで働くことを目指す人々に少しでもヒントとなれば幸いです。

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TOKONAME HUB TALK vol.4 トコナメ建築話 を振り返り

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2016年3月18日、会場は普段ギャラリー・カフェとして運営されている『TSUNE ZUNE』で開催されTOKONAME HUB TALK vol.4 トコナメ建築話に参加してきた。ゲストは普段関西を拠点に活動する3組の建築家、木村松本建築設計事務所の木村吉成さん、田所克庸建築設計事務所の田所克庸さん、そしてmasakikatoの加藤正基さん。3人の共通点は常滑の魅力にはまっていること。その魅力とは何かが今回のテーマだと思いました。

僕は仕事が押してしまい、着いた頃には木村さんのお話が終わってしまっていました。田所さんは、玉ねぎを干す農作業小屋から話が始まる。この小屋は、普段は農具をしまうスカスカの掘建小屋として立ち、収穫して玉ねぎを保存するときには、束になった玉ねぎがかけられて壁が現れる。風土や地域性が現れたこの小屋は、季節の移ろいのなかで何気ない日常の風景を変えていく。田所さんが設計された建築は、何気ない日常の変化、現れたり消えたりすることをそっと支えるようだった。続いて、加藤さんからは木村さんと加藤さんによる共同設計に加え、大工の伊藤智寿さんとの共同施工をしたプロジェクトを紹介。住まい手が決まっておらず、集合住宅一室のリノベーションが行われたこのプロジェクトでは、設計者と施工者の対話を通したデザイン、または、思考がドライブしていく瞬間について触れられた。次に紹介された、長屋を改装した『Gの別邸』では、田所さんを設計者に、施工者にアトリエカフエの安川雄基さんを加え、より複雑な対話が起きていたことを想像させる。しかし、誰かのささいな一言が誰かの頭に残り、誰かの設計図や施工の現場に反映されていく不思議なやりとりが起きていたという。そして、このやりとりの方が図面を介した設計施工よりもずっとスムーズで、ずっとやりやすかったというのだ。その背景には、常滑で製造されたレンガを素材として使用して空間を構成していることで、最低限のモジュールか共通事項としてあったからなのかもしれない。建築と関わる最小限の要素である玉ねぎがのちにレンガとなり、質疑応答で議論は進展していく。

進行を務めていた水野太史さんや谷村仰仕さんからは、「建築と自由さ」という表現で設計者同士や施工者と設計者同士のやりとりを説明していた。共同設計で建築家たちのエゴを薄めて調和させるのではなく、「常滑のレンガ」という共通の言語を手に入れたことで一つの集合体(Collectiveness)として活動し得たのだろうか。ブラックボックスと化した住宅は、住まい手や暮らし手の想像力(創造力)を奪い、ある限られた関係の中でしか暮らすことのできない「不自由な」生活を強いられている。そのときにほぼ誰でも自由に使うことのできる素材としての「レンガ」は、設計者と施工者だけではなく、のちにそこで暮らす人々とも対等な関係となるかもしれないと木村さんはお話しされていた。常滑のまちを歩けばすぐに土管や陶器で作られたものが援用された基礎や建築に出くわすことがある。これこそがゲストがこの町から感じる魅力で、私たちがいつの間にか強いられている不自由さから脱するきっかけなのかもしれない。しかし、レンガはまだ建築の不自由さに気がつかせるきっかけにすぎない。ある種、オープンソースのようなレンガを用いた設計を通して、専門性がどこにあるのか今後も議論を行う余地がありそうだ。