STOCK YARD ARIMATSU トークを振り返る
先週末は名鉄百貨店内にあるOpen MUJIで、出張PORTAL; SALONを開催しました。
#10 ゲストの武馬 淑恵さんからは名古屋市職員として関わるなかで、産地の魅力を一回性の高い(観光、経済振興)のための商品として取り扱われていることに気がついたと言います。一念発起して大学院でテキスタイルデザインの研究を行い、地域のお祭りで着る自分だけの法被を製作するワークショップを元銭湯で開催。「ばをひらく」ことを通じて、持続的に産業や伝統との関わりを地域に設けるプレイヤーになった経緯をお話いただきました。観光、暦まち、文化推進だけでなく、行政区分を超えた協働がこれからの課題であることが実感できました。
翌日の#11 ゲストである森田 一弥さん、 柳沢 究さんからは「まちをひらく」ことについて、有松や京都を下敷きにお話いただきました。名城大学として有松に関わる柳沢さんからは、物理的、社会的、経済的、人的な「まち」をひらくことで、継承、循環、刷新といった異なる時間軸の流れを引き受けるのではないかいう指摘がありました。共存する時間の差異に、リンチが指摘する都市の豊かさが現れるというお話はまさに有松や京都の特徴を言い表しているようです。また、森田さんはさらに解像度が高く「素材をひらく」ことについて、インテリアやリノベーションといった自作作品の解説から、まちへの関わりしろをラディカルに取り組む姿勢についてお話しされていたように感じました。建築のファサードが垂直に歴史が積み重ねられる欧州に対して、水平な(手前から奥へ)層となって現れる日本の建築。部分的な解体や修繕を通して時間の経過を肌で感じ、現代的な時間、技法、素材を組み合わせて再構築を行う。これにより複数の時間が同じ空間に流れ、メディアとしての建築が発するメッセージをより読み取りやすくなるようです。
三者のゲストからは、「複数の時間」を体感することができる空間あるいはまちである有松において、持続的に「よそ者の関わりしろ」を広げる取り組みを実施するための「政策の整理と統合」が『まちをひらく』ために必要であるとまとめることができるのではないでしょうか。今後、私たちの活動にも大いに参考にさせていただける知見だと実感しています。
ご参加いただいたみなさん、ゲストの皆さん、会場のご提供をしていただいた無印良品の溝内さん、井野さんに改めて感謝申し上げます。
なお、トークイベントは終了しましたが、月末の29, 30に開催するワークショップにはまだ若干の余裕があるようです。まさに、先の話を実感できるだけでなく、素敵なあなただけの無印良品絞り染めをつくることができますよ!お申し込みは下記のリンクからどうぞ。
無印良品 名古屋名鉄百貨店「名古屋発を応援しよう 『有松を知る。』Vol.2」 | イベント予約 | 無印良品
街へ関わるきっかけを探る「ごえんの投票」
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「多数決を取ります」なんていうフレーズを最後に聞いたのはいつごろだろうか。社会に出てからは30人程度が参加した会議で多数決による決定というタイミングはほとんどない。そこには意思決定者である社長や代表がおり、その人の判断に委ねられるため提案と調整で進行していくからだ。100人が反対しようが経営判断で実行に至ることもあれば、その反対もまた然り。その結果によっては意思決定者の首がすげ替えられることもザラだ。
社会に出てから私が最も身近な「多数決」は選挙だろう。(家族間や友人間での多数決は人数が少ないので割愛する)。大きな声で繰り返し叫ばれた名前と政治家としての良し悪しなど分かるはずもないのだが、なんとなく良さ気な人を選んで名前を記入して紙を箱に入れる。年々下がりつつある投票率は置いておいて、関節民主主義を掲げる我が国では、なんとなくの票と思いのこもった票と無関心な表にはならない意思表示が入り乱れる。「清き一票を!」という叫び声に対して、「この一票がなにかを変えることはないだろう」という半ば諦めムードが漂うのだが、他にやることもないなと投票しないのもバツが悪いかなと投票所へ向かうのだ。
1票を投じることに虚しさを感じてしまうのは開票速報を見ている時だろうか。私自身はアルゴリズムで判明した思想が似ている政治家に投票することにしているのだけど、その人の顔も経歴もわからないけれど1票の行方を少しだけ気にしてテレビを見ている。そしてまったく別の名前の人が当選したところで「まあ、そんなもんか」と切り替えて当選した政治家の行方も大して追わず、選挙でわずかばかりうるさかった非日常から少しだけ静かになった日常にまた戻っていく。
このように不特定多数の利害関係者同士による政治的な意思表示として選挙はほとんど機能していない。首がすげ替えられても代わり映えしない状況という雰囲気はただカウントされるボタンを1度押しているだけにすぎないと感じてしまうからだ。なんとなく1を押す回数が多いボタンのカウンタは多く回り、ボタンを押す私たちは結果や過程に介入することはできない仕組みとなっている。なんとなく辛いてなんとなく楽しい日常を、少しだけ楽でもう少しだけ楽しくするために、どうしたら私たちはボタンを押すことができるのだろうか。
そんなことを考えながらARIMATSU PORTAL; PROJECTで制作したのがこの「ごえんの投票」だ。この投票箱は地域のお祭が開催されている期間中に、通りに面して設置され、まつりの来場者や地域の住民によって投票が行われた。項目は非常にシンプルだ。「わたしが有松でしたいことは」に対して、「暮らすこと」「働くこと」「紹介すること」「遊ぶこと」という4つ項目のいずれかに投じてもらう。投票に参加することで意思表示がまちの方向性を方向づける(ほどのちからはもちろんないのだが)きっかけになるかもしれない。また、この投票箱はお祭りが終わった後も継続して1週間程度設置され続ける。投票結果を見る人たちは、有松という地域に対する期待と自分たちの日常にどのような折り合いをつけていくことができるのか判断しなければいけないことが突き付けられる。問うことで問われる構造を持ったこの装置は、観光戦略を掲げる行政に対する不満を解決することは不可能で、市民対市民の利害関係の調整が必要であるということを露わにする。その時に、エリア内外の市民たちはどのような意思表示をするのか、この結果はどのような行動を引き起こすことに繋がるのかを考える小さな社会実験だ。
この掲示板を貼った背景のひとつには、有松というエリアが重要伝統的建造物群保存地区として選出された*1ことがある。かつて産業地帯だった有松が今では観光都市として転換を迫られている。諸手を上げて喜んでいる人もいれば、このエリアで日常を過ごしていた人からは不満の声も少なくない。また、有松がある緑区は名古屋市においてベッドタウンで現在も人工が増え続けているエリアで、日常を過ごす人がとても多い。そうした中で非日常的な観光都市化を市民らが本当に迎えられるのかは未だ判断がつかない。
さて、実際に2日間に設置していたところ、投票数だけを見れば「遊ぶこと>暮らすこと>紹介すること>働くこと」の順番となった。お祭りだったのでなんとなく想像通りだろうか。一方で僕はこれだけ遊びたいというニーズがありながら、遊ぶ場所は現在の有松に多くないなかで働きたいという意思を持つ人がこれほどいたことに驚いた。需要と供給のバランスを考えるとビジネスチャンスはあるのだろう。
さて、このような結果となったのだが街で暮らす人々はどのような判断をするだろう。高齢化によって暮らしにくくなった古民家を次の住民や事業者に貸すことなどはできるのだろうか。あるいはこのニーズに応えるサービスを提供する事業者はでてくるのだろうか。あるいは愛着が高まり手放すことを考え直すだろうか。今年の秋には重伝建に選ばれたことで式典も予定されていると聞くこの有松で、どのような意思表示をする人々が出てくるのだろうか。この小さな実験が意思決定にどのように作用するのか、主体的に街へ関わることを選択する人が出てくるのだとしたら楽しみでならない。
オープンスタジオを終えて
メタデザイン: 対話のためのアイデアワークショップ
プロッタとチャコペンで消える下絵を描く
- silhouette CAMEO 2
- silhouette CONNECT(米国版サイトからダウンロード購入)
- ボールペンプランジャー
- チャコペン、または青花ペン
- コットンの布
- 小幅よりもう少し小さな30cm幅の生地ならドローイングできる。
- データから直接生地に下絵を描くことができる
- ペンが接触するのでわずかにずれる
- シートと布をはり合わせる時のシワによっては、描くことができない
- 長い生地を使うと、横のズレを制御するのが難しい