オープンスタジオを終えて

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個人事業主として登録してから5月で丸2年となる。その節目に先駆けて2016年4月17日に借りてから半年以上経った有松の事務所でようやく事務所開きをすることができた。一緒に事務所を借りるグラフィックデザイナーの武村彩加さんと我々も活動するARIMATSU PORTAL; PROJECTのメンバーである建築家の松田孝平くんとともに。

今回は展示に向けてコンセプトは立てなかった。今生で動いている状況を提示しつつ、この場所で何かが起きそうな予感を共有したかったからかもしれない。武村さんはさすがに僕よりも早くフリーとしての活動を始めていることもあり、すごい仕事量だった。卒業後はパッケージから始まり、イラストも自分で描き、今ではエディトリアルまで展開している。思い起こせばAPPでのフリーペーパーで武村さんがエディトリアルデザイン、僕が編集構成をして配布していたところ次のフリーペーパーを呼び、さらにそれが別の仕事につながって今も継続していることはとても嬉しい。

僕自身もわずか2年ばかりの間にあっち行ったりこっち行ったりする脳みそを整理するにはとてもいい機会となった。〈YOSANO OPEN TEXTILE PROJECT〉〈GoodJob! プロジェクト〉〈障害者福祉施設×菓子製造販売事業〉などで製作したプロトタイプやリサーチツールなどを出しつつ、research through/ into/ for designを分類した。そこで見えてきたことはやはり歴史や文献からたどるintoの領域、つまり、執筆や研究を割くことができていないことだろう。今年はもう少し活動について活字で残すことを考えていきたい。

友人知人恩人だけではなく、街の人もふらりと入ってきてくれたこともあり、想定よりも多いおおよそ50名程度の来場となった。末文ながら有松まではるばる足を運んでくださった皆さんにお礼を申し上げます。今年は拠点を整備したので、有松から発信していくことを意識していきたい。名古屋におこしの際は是非お声がけください。

メタデザイン: 対話のためのアイデアワークショップ

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原研哉藤村龍至は予てから、デザインをデザインすることにより、これまでに見られなかった共創や創発といった他者性の獲得を目指したデザイン言語を目指してきた。学術的な領域では『デザインを支援する環境をデザインすること』を「メタデザイン」と指し、昨今のデザインリサーチャーやファシリテーターと呼ばれる職能の一つとしている。メタデザインでは、ワークショップよ成果物として生成されるスケッチやプロトタイプを重視するのではなく、スケッチやプロトタイプの背景や生まれたものを通してデザインが乗るシナリオを再考することに目的を見出している。

先日、有松の染工場にてヨーロッパからテキスタイルデザイナーを招き入れたアイデア・ワークショップを行った。ゲストに地元で絞り染色に従事するクリエイターを2名に声をかけ、テキスタイルやアパレル、プロダクトや建築などに関わる学生と社会人8名程度が参加するものだ。スーパーバイザーとして欧州のデザイナーと染工場の社長を置き、14時から17時までにたくさんのアイデアを出すものだ。
プログラムはおよそ3部構成となり、アイデア出しとグルーピングを2回行い、最後にプレゼンテーション。初回のアイデア出しは体験や記憶をキーワードとして記述し、二回目はゲストクリエイターがピックアップしたキーワードに具体的なイメージを与えていくもの。そして、そのイメージの総和が何を指しているのか、改めてグルーピングして、プレゼンテーションを行う。最終的には二つのグループから「小人のような視点」で「包まれた感覚」を感じさせるアイデアや「ポータブル」で「ライフログ」を生かす媒介としてのアイデアが出された。

さて、今更ながらこのワークショップの目的を記したい。とあるプロジェクトにより、国外のデザイナーと話を進めるにあたり、オンラインでのやり取りでは互いの強みや興味を理解することは難しい。言語や文化だけでなく、生活習慣や価値観まで異なる場合がほとんどだ。そのため、今回のワークショップでは、「共有する価値観の表出」、「デザイナーが創造する過程・動機」、「職人とデザイナーの関わり方を模索」するために設計された。つまり、プレゼンテーションまでに記述されたキーワードやスケッチなどをテキスタイルデザイナーや絞染色職人がどう肯定するのか観察していたのだ。スーパーバイザーの2人には、「具体的な項目を挙げて賛同すること、共有することを教えてください」と伝え、プログラムの中に発言を促す場面を設けていた。

こうして得られた共有するキーワードをもとに、翌日の振り返りでは、「デザインのアイデア」を見出していく。なぜそのような共感をしたのか追加インタビューをしながら、デザイナーと職人の価値観を見えるようにし、対話を促す。今回のワークショップでは、日本人が日常的な驚きや発見をもとに創発していたことを欧州のデザイナーは驚いており、彼女自身の制作には「えも言われぬ感情」や「蓄積されてきた人生経験の爆発」が起因していることが発見できた。そのため、単なる「◯◯風なデザイン」と言った抽象的な発注にするのではなく、より具体的な体験を引き起こすデザインの発注になることが予想できる。このように「メタデザイン」によるワークショップとは、作風やイメージが先行した「置き換える」発注(浴衣地に洋風な柄をあてがうなど)ではなく、作家のインスピレーションを高め、互いが目指す価値観を共有する対話の機会となるだろう。

プロッタとチャコペンで消える下絵を描く

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《用意するもの》
  1. silhouette CAMEO 2
  2. silhouette CONNECT(米国版サイトからダウンロード購入)
  3. ボールペンプランジャー
  4. チャコペン、または青花ペン
  5. コットンの布
シルエットカメオ2にAdobe Illustrator CC2015から吐き出すことができるsilhouette CONNECTを購入し、チャコペンをプランジャーを差し込む。もしハマらない、ゆるすぎる場合はプランジャーかペンを削って取り付ける手もある。

高さ方向などの細かい数字をソフトウェア上で調節し、吐き出す。オリジナルの台紙は12×12inchなので、長い布にしたい場合は0.5mm厚くらいの塩ビシートを40cm×120cmほど購入し、スプレーのり(3Mの55くらいがちょうどいい)を吹きかけ、生地を貼り付けてずれないようにして使用すること。使用後は、のりがついた綿を内側に、くるくる丸めればいい。

《出来たこと》
  • 小幅よりもう少し小さな30cm幅の生地ならドローイングできる。
  • データから直接生地に下絵を描くことができる
《課題》
  • ペンが接触するのでわずかにずれる
  • シートと布をはり合わせる時のシワによっては、描くことができない
  • 長い生地を使うと、横のズレを制御するのが難しい
シルエットカメオでは、理論上、3m程度までカットできるらしいが、そのためには台紙がずれないような治具をつくらないといけないかもしれない。
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『居座り続けるための設え』としてのリノベーション

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国土交通省が定めた指針によると、空き家とは居住など定常的に使用されていない状態が1年以上続いた建物であるという。物置として使用していようが、イベントで1日2日貸していようが、使用者がいない限り、その建物は空き家として認識されてしまう。文字通りの空っぽの家ではなく、使用者が長期間不在の家であるということだろう。

そうした空き家が総務省の発表で80万戸以上全国にあり、全体の住戸数の10%を超えている。さらに称し高齢化がこのまま進むことで、20年後の2033年には全体の30%にあたる200万戸が空き家になると野村総合研究所が発表した。饗庭伸さんの「都市をたたむ」では、高密度都心部における空き家が顕在化するとスプロール化ではなくスポンジ化を引き起こし、行政サービスや資本が縮小していくことに警鐘を鳴らしている。本書でも実践されているように、中規模の都市である程度集まって暮らす方法が日本国内で求められているようだ。

空き家問題には当然、空き家を管理するものと空き家を使用するものに分けられる。前者は大家やオーナー、不動産管理会社などの地権者であり、後者は借り手のような権利的には弱者な者たちだ。空き家問題が都市計画の中で取り上げられている背景には、課題が建物だけではなく治安や社会福祉といった社会サービスにまで及ぶからであり、決して、自由な生活スタイルを支持するためのものではない。
一方で、後者の借り手や使い手は、自分たちで建物の修繕をすることを楽しんだり、手間はかかるが相場より低い金額で借りることができるため、行政きな支出を圧迫する空き家問題ではなく、自分の生活の延長の中に捉えている。複雑に構築された不動産産業の中でブラックボックス化された、建築に関わることをもう一度取り戻す「民主主義的な活動」に知らずのうちに参画しているのではないか。先に触れたスポンジ化したエリアでは、リノベーションによって開かれた環境はシェアハウスやお店など、交流を引き起こし、次の活動を引き起こす手かがりとなる。

つまり、ここで触れる空き家問題におけるリノベーションとは、行政や所有者などの地権者がもつ絶対的な権利を借り手や住まい手たちの創造的な実践によって、全体へ分配する方向に働く行為だと言えよう。欧米諸国ではクリエイティブ資本論スクウォッティング支援運動が議論されているように、日本国内でも「ヒップな生活」のためのリノベーションではなく、暮らしを手に取り戻すことを議論することが必要ではないだろうか。その時、原状回帰義務や定借期間契約などは権利を保つささやかな抵抗に過ぎない。少子高齢化が過剰なまでに進行する将来の日本において、リノベーションによって引き起こされる建物の民主化は、共生社会の礎えになるだろう。そのときに私たちは「居座り続けるための設え」をどのように社会にデザインすることができるだろうか。

デザインリサーチャーへのインターンとは

本日は春休み期間中にインターンとして事務所に来ていた学生3名と打ち上げに。昨年度は秋の平場と春休みの二回、実験的にインターンの受付をしてみました。それまで、バイト的な手伝いで来てもらったことはあるのですが、継続的な取り組みは今回が初めてです。今回の取り組みは下記の通りです。

秋学期中のインターン概要
期間: 9月から週1日の3ヶ月間 10:00-17:00
人数: 3名(デザイン学科2名〈B3, B4〉、法学部1名〈B3〉)
報酬: 1〜1.5万円/月
内容: デザインリサーチ補助業務(WSの下準備、ブレスト、データ整理)、編集業務補助(文字起こし、原稿整理)、デザイン業務補助(事例採集、レイアウト作成)など

春休み中のインターン概要
期間: 3月から週2日の2ヶ月間 10:00-17:00
人数: 3名(デザイン学科1名〈B4〉、建築学科2名〈B3, B4〉)
報酬: 1.5万円/月
内容: デザインリサーチ補助業務(WSの下準備、ブレスト、データ整理)、編集業務補助(文字起こし、原稿整理)、デザイン業務補助(事例採集、レイアウト作成)など

おおよそ1日の流れ
1000 事務所入り、室内外の掃除
1020 本日の作業共有
1045 作業開始
1150 進捗報告+フィードバック
1200 昼休憩
1300 作業開始
1500 進捗報告+フィードバック、おやつ休憩、デザインの話をあれやこれや
1545 作業再開
1630 進捗報告+フィードバック、次回のスケジュール確認、掃除
1700 解散

どちらもデザインリサーチの基礎となる部分を対面で教えていく形になります。ワークショップ設計の下準備では、「なぜやるのか」「どのようにやるのか」「なにがひつようか」を一緒に考えたり、出てきた質的データの分析・整理(=文脈の理解)をともに行います。それをもとにブレストを行い、コンセプトの立案やサービスデザインの設計といった事業計画の策定(=物語の構築)を行っていきます。インターン生は主にブレストからデータ整理の初期まで(文字おこしやデータ化まで)を行い、そこからは私が継続して、概念化を進めていきます。

編集補助業務は、デザインリサーチ補助業務でも行う文字おこしや初期編集を担当してもらいます。編集はデザインリサーチでも重要な概念で、物事の骨格を探りあて、アウトラインを明らかにする作業です。複雑な情報を精錬し、新たな発見を生み出すカタチ(=テキスト)を与えることが大切です。ARIMATSU PORTAL; PROJECTのサロンで行ったイベントの文字おこし原稿2万字から6千文字へ編集してもらいました。そこから3000文字まで、私が引き継いで行います。実際に編集した原稿をリアルタイムで共同編集し、編集方針を伝えることもしていました。
デザアン補助業務では、ベタに事例採集やラフレイアウトの制作をお願いしていました。また、プレゼン資料制作補助も含まれます。事例最終では、単にたくさんの数を集めるだけではなく、プロジェクト概要を理解した上で最終し、事例を分類してネーミングをつけ、比較することができる状態にまで仕上げてもらいます。

今年度はこうした作業を外注するカタチでインターンを行ってもらいました。自分自身の経験として、「有給」であること「対話をしっかり行うこと」を意識して行ったのですが、僕自身も「支出として」みるのでしっかりと時間内に決められた作業を遂行してもらう方法を考えたり、コミュニケーションの質が上がるようになるべく平易な言葉遣いを心がけていたなど、自分自身の学びになることも多かったです。
両期間とも参加したインターン生からは、「週1は前の作業を忘れてしまいがちなので、週2くらいでは継続してやれているようでちょうどいい」ということや「固有名詞がカタカナばかりで、ついていくのが必死だった」ということを指摘されました。確かにデザインリサーチやその周辺のデザインの動きは日本語化されておらず、そのまま使っているからなのかもしれません。また、別々の期間に参加していた学生それぞれからともに「緊張する」や「圧力を感じる」という発言があったのが印象的です。もう少しのびのびとしてもらえたらと思ったので、この点は改善点ですね。

デザインリサーチャーにインターン募集をする理由を問われたのですが、デザインリサーチャーを増やしたいと思うのもそうですが、それ以上に、共通の言語で話ができる専門性の高いデザイナーや建築家を見つけたいからかもしれません。デザインリサーチャーとして最終提案まで持ち込むことはありますが、自分が必ずしも作らなければいけない場合を除いて、専門家にきちんと任せられる仕組みを作るべきだと思っています。外注先ではなくパートナーを増やすイメージですね。

建築家やデザイナー事務所でのインターンとは異なる様相が伝われば嬉しいです。(売れっ子に比べて)仕事が少ないタイミングだからこそ、手取り足取りできているのかもしれません。この機会を通して、デザインリサーチャー、デザインリサーチャー的な活動の理解に努め、未来のスタッフを探していきたいと思います。次回のインターン募集は夏休みごろを想定していますので、twやfbの投稿をご確認下さい。