デザインリサーチャーとして働きたいあなたへ
AXISでデザインリサーチが特集された2000年のvol.88、そして、アドバンスト・デザインリサーチととして元RCAのアンソニー・ダンが特集された2009年のvol.142が発行されてから、すでに15年以上の月日が流れています。まだ「デザインリサーチ」という活動や「デザインリサーチャー」という職業が日本一般化しているとは言えず、2016年の今でも「新しい働き方」として、僕自身声をかけられることがあります。しかし、私もフリーランスのデザインリサーチャー、サービスデザイナーとして活動し始めてそろそろ3年目を控えているのですが、情報を編集し、新たに構成し直す設計者としてのデザインリサーチャーに少しばかり感心が集まってきていると感じます。大変光栄なことに講師としてお声がけされることやデザインリサーチャーとして働くにはどうしたら良いのかと質問を受けることがあります。デザインリサーチャーとしてすでにご活動されている方々には恐縮ですが、私の知る限り、デザインリサーチャーとして働く企業や環境がどういったところにあるのかご紹介いたします。
まず、「デザインリサーチャー」として働くか、「デザインリサーチャー的に」働くかという観点で分けて考えてみます。前者はきちんと「デザインリサーチャー」を募集し、あるいは名乗りを上げて働く方法でありますが、後者はそうではありません。研究職や企画、あるいはデザインなどの所属として「らしい」働き方をすることです。日本では後者のほうが圧倒的に多いことを先に触れたうえで、まずは「デザインリサーチャー」として働く方法を紹介します。
デザインリサーチャーとして働く
デザインリサーチャーとして働く殆どの場合、組織の一員としてプロジェクトに関わります。さまざまな背景を持つ参加者らとともにひとつのゴールに向かって活動する、その前提となるデザインリサーチを行うことに責任が発生します。リサーチが元になり、各工程でのフィードバックを得ることで共創(co-design)に繋がり、プロジェクトに、これまでにない洞察を持ち込む重要なポジションといえるでしょう。さて、そのようなデザインリサーチャーとしての働き方は、下記のようなものが挙げられます。
1)国内のデザインファームでデザインリサーチャーとして働く
あまり知られていないかもしれませんが、日本でもデザインリサーチャーを募集している企業は存在します。例えば、先日はGKデザインがデザインリサーチャーを募集していましたし、takramでもデザインリサーチを行うサービスデザイナーを募集しています。また、古くから国内でデザインリサーチを実践しているトリニティ株式会社などもあります。いずれも狭き門ではありますが、数少ない国内企業でのインハウス・デザインリサーチャーです。ほとんど事業内容はわかりませんので、学生はインターンなどで内部に入り、その実態を見定める必要があります。国内外の企業から業務委託を受けているケースが多く、それに合わせてリサーチャーやデザイナーなどとチームを組んだ活動をするのではないでしょうか。
2)外資系デザインファームでデザインリサーチャーとして働く
日本国外の支店で働く場合(でなくても)、英語で流暢なコミュニケーションできる能力がほぼ確実に求められます。外資系デザインファームで日本に支店をおいている例では、IDEO TOKYOなどが挙げられます。また、プロジェクトごとに上海などの支店が日本国内でデザインリサーチをする際に、新たにメンバーを募集するケースも有ります。外資系デザインコンサルタント会社では、frogやflamingo、などがありますが、メーカーの研究所では、マイクロソフトリサーチやノキアリサーチセンターもかつてデザインリサーチを牽引した組織として知られています。
3)デザインリサーチャーとして名乗りを上げて働く
デザインリサーチャーは士業ではありません。デザインリサーチという分野になにがしか関わり、質的調査とデザインに従事していた人はフリーランス、あるいは企業することでデザインリサーチャーとして働くことができます。大学院修了後、すぐに個人事業主として活動を始めた僕はこのケースです。ただし、キャリアも人的ネットワークもなければ、仕事を獲得することはできません。その一方で、クライアントに左右されない独自のプロジェクトを行うことができるのが魅力でしょうか。
デザインリサーチャー的に働く
4)経営コンサルタントで「デザインリサーチャー的に」働く
5)ITコンサルタントで「デザインリサーチャー的に」働く
6)広告代理店で「デザインリサーチャー的に」働く
あるいは○○総研のような研究所で「デザインリサーチャー的に」働くこともこのケースに含まれるでしょうか。強みである要素、戦略コンサルであれば事業戦略計画の一環で、マーケティングリサーチに加えて現場調査や事業計画を考えることを行うでしょう。また、ITコンサルであればユーザーリサーチやインタラクションに関するリサーチを、広告代理店では、ブランディングの一環でデザインリサーチャー的にブランディング事業に従事することです。いずれのケースでも質的/量的な調査を行い企画立案するところまで行うでしょうが、試作することや実際に落としこむところまで責任を持ってやることは稀だそうです。自分たちでデザインはやらない、やれない。その代わり、デザインパートナーに外注し、リスクと責任をきちんと管理している点がデザインリサーチャーとしての違いでしょうか。
7)アカデミックポストで「デザインリサーチャー的に」働く
大学の先生として学生を率いて、質的な調査やデザインを実践的な教育の中で行う人たちです。芸術博士だけでなく、工学博士のひとも含まれ、切り口はデザイン・デザインマネジメント、教育、社会科学、文化人類学などさまざまです。デザインリサーチに焦点を当て、道具の開発や理論の研究を行う方もいますし、プロジェクトの省察からデザインリサーチ手法やデザインが社会とどのような関係を育んでいるのか研究します。ある意味では最もピュアなデザインリサーチャーなのかもしれませんが、研究職としての本業があるので、あえて「デザインリサーチャー的に」働く分類としています。
どのようなポストで働くのか
これまで紹介した働き方は、2016年3月現在のポジションです。僕が留学をしていた北欧では、友人がデザインリサーチャー/サービスデザイナーとして、社会福祉やその他の行政サービスのデザインに関わっています。これまでの製品開発ではカバーしきれていない行政サービスを開発するにあたり、今までにない洞察や知見をもたらすポジションとしてデザインリサーチを行っているそうです。また、サービスデザインを主たる業務とするデザインコンサルタント企業もこうした取り組みを始めています。もしかしたら近い将来、行政の中で分けられた部局に横ぐしをさす存在としてデザインリサーチャーが活躍する日も遠くないのかもしれません。
ざっくりとした内容ではありますが、デザインリサーチャー、あるいは、デザインリサーチャー的なポジションで働くことを目指す人々に少しでもヒントとなれば幸いです。
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伝統工芸に対するオープンデザインの試み
事務所のこと、有松のこと
デザインリサーチを体験する「カレーライス」ワークショップ
「デザインリサーチとはなんですか?」と聞かれることから、私の自己紹介が始まります。「文脈の理解と物語の構築をすること」と返答することもありますし、「言葉にならぬ『当たり前』を見つけることから始めるデザインです」なんて説明をする場合もあります。お答えした相手はほとんど頭の上にはてなマークが付いていることが多いので、まだまだ自分の言葉になっていないんだということを実感します。
- 人数が多ければ3名以上でグループをつくり、8名程度なら全員で一緒にやりましょう。1人を進行役に、他のメンバーは参加者。
- 進行役は参加者にペンと紙を配り、思い出に残っている家庭のカレーライスの絵と説明を参加者に書いてもらう(10分)。具体的にどんな具材が入っていたのか、どんな時に食べていたが、誰と食べていたのかなどをなるべく書いてもらう。
- 参加者は1人ずつ「わたしの思い出に残っている家庭のカレーライス」をプレゼン(各2分)。
- 進行役は「なぜそのようなカレーライスがつくられたのか」参加者に尋ね、思い出のカレーライスにまつわるエピソードを抽出し、参加者と分類していく(10分)。e.g.時短料理としてのカレーライス、家族旅行を象徴するカレーライス、自立過程におけるカレーライスなど
- グループごと、あるいは参加者全体でわたしの思い出に残っている家庭のカレーライスの構造を理解する。【文脈の理解】
- 参加者から抽出されたカレーライスの文脈のなかで、最も極端な事例や面白い事例を選び、その文脈をもとにした新しいカレーライスのアイデアを思案する(15分)。e.g.キャベツとちくわの入ったカレーライスは、文脈に「カレーライスしか子どもが食べず、青野菜などを一緒に摂らないこと」を心配しての行動だった。そこで子どもが野菜を自然に摂れるカレーライス、あるいは食の組み合わせ、あるいは食体験を提案せよ。
- 参加者はポンチ絵+コメント程度で構わないので、アイデア 1個/分を目指してたくさん考える。進行役は時間配分を気にしながら、アイデアの種を投げていく。とにかく手を止めないこと。
- 進行役は提案された内容を分類し、「小さな子どもを持つ家庭のための、たくさん野菜をとることができるカレーライスにまつわる物語」を描く。【物語の構築】