デザインが生成される時、デザイナーはなぜデザインをするのか
本日はトコナメハブトークにて、デザインディレクター岡田栄造さんのお話を聞いてきました。工繊時代から大変お世話になっている岡田先生。
クライアントワークと言うよりは、インディペンデントなプロジェクトにおけるデザインディレクターとは何を考え、行なっているのか。自身初めてのディレクションを行なったRIBBON PROJECTでは、企画書もなく工場見学なデザイナーとの対話がメイン。参加デザイナーから上がってくるアイデアに一番先に触れられる楽しみはあるが、どれにGOサインを出すのか目利きとしての能力や責任が問われる。
岡田先生は「義憤」とおっしゃっていたけれど、市場での差別化のためにデザインが使われる時代に、デザインが本来的に持つ現実拡張性や価値観を揺さぶる切り口をどのように方向付けるのか。その一点がまさにデザインディレクターとしての手腕であることがわかりました。つまり、「なぜデザインするのか」という動機付けを行うことだと感じました。
後半は常滑という地域性もあり、アノニマスデザインの話に。リアルアノニマスデザインを上梓されたときの議論を思い出しながら話を聞いていました。柳宗理がワークショップという手法を通して、工業時代における民藝運動としてアノニマスデザインを確立したように、情報化時代において集団の叡智である集合知によって生み出されるアノニマスなデザイン。主催の水野太史さんからは、ジェネリックなデザインに「切実さはあるのか」という疑問がぶつけられていました。岡田先生は「オルタナティブが成り立ちにくい時代」という前置きをしながら、デザインする/される理由を見つけられることが鍵だと話しているように感じました。
多大なインプットや学習によって人工知能が作り出すプロダクトはデザインされたと言えるのでしょうか。人工知能でなくてもクライアントの課題や条件を満たすことだけで生成されるプロダクトも同様にデザインされたと言えるのでしょうか。水野さんがおっしゃられた「切実さ」はそこには感じられないかもしれません。また、岡田先生がディレクターとして見出す「なぜデザインをするのか」という問いかけもそこには不在なようです。
クライアントワークをこなすとどうしても近視眼的にローカルな話ばかりに目が行きがちです。要求にどう応えるのかが優先され、なぜつくるのか蔑ろにしてしまう。動機や理由を剥ぎ取られないためにも、私は「なぜつくるのか」を考え、「問いかけ」の質を高めて行きたいと思いました。
アート化セミナーの資料『はじまりを捉え直すためのデザイン』を公開しました。
2015.2.22に奈良県にある社団法人たんぽぽの家が主催する「アート化セミナー」の<工程をデザインする>セクションで、poRiffの薮内都さんとUMA/ design farmの原田祐馬さんとお話をしてきました。その際に僕がプレゼンで使った資料を下記に公開します。
登壇前に部族長のようになってしまったのはここだけの話…
アート化セミナー無事終わりました。原田さんと今をときめくデザインリサーチャーやんばる師匠に囲まれて、緊張しすぎていた2日間でしたが、素晴らしい場に立たせていただいて本当に感謝です。話しながら学ぶことのできた貴重な機会でした。 pic.twitter.com/xmWtvWmfOK
— 薮内都 (@ai_my_mko) 2015, 2月 22
障害者とのものづくり、工程をデザインするpoRiffの取り組み
本日はたんぽぽの家が主催する『アート化セミナー』にてpoRiffの薮内さんと「工程をデザインする』パートでプレゼンをし、UMA/ design farmの原田祐馬さんも交えてのクロストークに参加しました。poRiffの話が非常に面白かったので、ツイートを元にメモをば。
poRiff(ポリフ)は、ビニールの買い物袋を細かく裂いた1万ピースをコラージュし、アイロンで熱溶着してつくるシートを使ったプロダクト。薮内さんは3つの施設(就労B型、生活介護)で非常勤勤務をしながら障がいのあるひともつくることが出来る工程をデザインし、彼らとプロダクトをつくっている。こうした活動ができるのは、施設でpoRiffの商品を作っているだけでなく、制作や展示を含めたアート活動、施設の広報物制作、展覧会の企画運営、自主製品の開発や施設外のデザインなどを兼務しているからだそうだ。poRiffとしては、他の施設や展示会場でのワークショップの企画運営と作業工程の設計を行い、営業活動・販売管理と新商品の開発なども行っている。前者は支援、後者は技術提供という複眼的な視点で幾つもの業務を並走させている。
poRiffは様々な障がいを持つひととものをつくるため、いくつかの簡単な工程を複数の利用者で分業している。まずはメンバーが地域のさまざまな場所から素材となるビニール袋を集めてくる。担当の利用者が集めたビニール袋をまっすぐに伸ばして色分けをし、素材の加工によって分類を行なう。ここからハサミが使える人にバトンタッチをし、ビニールを細かく裂いていく。poRiffの特徴的な柄を出すためにサイズが異なる3つのピースを切り出していく。切り出したピースからベースとなる大きいもの、差し色となる小さなピース重ねてアイロンを掛けて大きなシートを作成する。大きいピースと小さいピースの選定者を交代させることで人為的にランダムな柄となるそうだ。早ければ2日間、長い人は2週間かけてシートをつくる。そこからプロダクトの方に合わせて切出し、ミシンを掛けて、商品の完成。シンプルな工程のため、ワークショップの後にパクられたり、改変されたりすることもあるそうだが、ピースのサイズ調整やアイロンがけのタイミングなど、いくつもの試行錯誤の上に成り立っているので表面的なマネはできてもあの特徴的な柄のプロダクトをどこでも作れるわけではないだろう。
当時、芸大生として「人と違うようにあれ」と教育されていた薮内さんは、福祉施設へ出入りする中で健常者ができることを利用者ができるように「させられている」ことに衝撃を受け、デコボコなそのままを認めることをテーマにしたそうだ。こうして開発に1年の期間を有してようやく市場に出回るようになったpoRiffの販路が増えてくる中で、テーマを再考する「poRiff exhibition2014 STANDARD WO UTAGAE!」を実施した。poRiffで何をしているのかなど各利用者さんの日常を切り取るような質問をし、どんな受け答えをしてどのような回答を得たのかを展示した。利用者とのコミュニケーションは発話のほか、筆談や身振り手振りといったものもあったようだ。個人的に注目したいのは、利用者とスタッフにカメラを渡して普段の生活を撮影してもらうというリサーチ。利用者とスタッフと薮内さんが築いてきた関係がよく現れていることだけでなく、薮内さんの創造を超えた超日常的な所作が表出していたからだ。
この展示を通して、薮内さん自身を含めた鑑賞者の価値観や常識が揺さぶられることを期待したという。つくれる、売れるといったことが利用者のモチベーションに影響している。彼らの個性を活かして作れるためにはその特徴を浮き彫りにし、さらに、居場所や働き方に合わせていく調整が求められる。色を見分けるのが苦手な利用者には、カラフルな素材から白黒の素材に変更してツートーンのシート素材を開発した。出来上がったシートの質の高さを褒めてるうちにもっといいものを作ろうと総ドットのバックができあがり、市場でも好評だったのでそのまま正式な商品化につながったと言う。利用者自身がどんな人になりたいのか個性を尊重し、豊かな時間過ごすことができる環境がそこに出来上がっている。
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改めて話を聞いてpoRiffの凄さを理解することができた。3つの施設をはしごして製造管理、営業、施設の広報物のデザインまでこなす彼女の横断的な才能に驚きを隠せない。利用者の特徴を引き出すために柔軟なデザインプロセスを念頭に置き、日常の所作から作業を引き出そうとする姿勢はデザインリサーチとオーバラップしており、「ここも共通点あるやん!」とうなずくばかりでした。私も講師としてお話させていただきましたが、彼女や他の講師の話は非常に勉強になり、私自身もとても学びの多い機会となりました。
poRiff
poRiff
Good Job!セミナー 愛知 ~福祉と企業の協働から生まれる地域ブランディング~ に登壇しました
<名古屋展示の様子>
障がいのある人たちとの協働によって生まれたプロダクトの展示・販売やその取り組みや仕組みの普及を行うGood Job! プロジェクトの東京展示に引き続き、名古屋のナディアパークでの展示に「絞染色 久野染工場×Good Job! プロジェクト」で開発中のレインウェアを出展していました。また、13日(土)には久野染工場専務とセミナーにも登壇させていただき、満席の中で取り組みについてお話させていただきました。セミナーにご参加くださった皆さん、わずか3日間という短い期間の中に訪れてくださった皆さんに御礼申し上げます。
授産品からプロダクトへ
授産品と呼ばれる障害者支援施設から生まれた商品は国内にもたくさんありますが、そのデザイン性の低さのせいか、私は「社会的正義」を購入しているかのような気持ちがしたことがあります。モノが良い場合になおさら強く感じてしまうのは、僕がデザインを学んできたからというわけではないと思います。経産省が「デザイン導入の効果測定等に関する調査研究」のなかで、狭義のデザインを「あるコンセプトや想いを具現化するための造形行為とそのディレクション」と定めていますが、広義のデザインを「あるコンセプトや想いを具現化するための計画・設計行為とそのディレクション」※ディレクション=方向付け、調整、意思決定としています。僕が感じた違和感というのは、思いが意匠造形に反映されていないだけでなく、「福祉×ものづくり」のもつ意義が表面化していなかったからではないのかと思います。
できることから考える/ファシリテーションをする
セミナー内でまちづくりなどを行なうRootsの佐藤直之さんが「まちづくりは事例(箱物・ゆるキャラなど)のコピーが蔓延し、本質的な"町の生活"の改善に影響していない。」と厳しく指摘され、たんぽぽの家理事長の播磨靖夫さんも「福祉も事例(さをり織り・キモカワ雑貨)のコピーが多い」と類する批判をされていました。これではパイの奪い合いとなるだけで、障がいのある人の自立をサポートすることはとても難しいでしょう。当事者の声を聞くことなくカタチから入り、目標と目的を誤認していることが多いのは、ケアする側のスタッフが介助などの作業で考える時間があまり取れないことも原因のひとつとなっていそうです。今プロジェクトにおけるデザインリサーチャーの役割は、スタッフの代わりに当事者の声をきちんと抽出し、製造業やデザイナーとの間を取り持ち、絞りや柄のテキスタイルデザインまで昇華させること。福祉施設の利用者とスタッフがどのようにものづくりへ関わることが出来るのかを見定め、どのようなプロダクトをつくるのか方向づけることでした。
セミナーの中では、私たちが関わったプロジェクトのように、製造業と福祉施設の協働をすれば、このようなポンチョが制作できる事例が成立するわけではないことを念を押してお話させていただきました。必要な情報を抽出し(ワークショップ)、利害関係者間で共有し(デザインディレクション)、プロトタイピングを繰り返すことが求められていたのです。このプロジェクトは「レインウェアの制作」が決まっていたわけではなく、「できること・出来る方法から商品を開発」した結果、レインウェア・ポンチョとなり、「障がいのある人が伝統工芸で働く」環境を獲得する可能性を示そうとしたのです。
ポンチョ開発で見えた「福祉×ものづくり」の可能性
<東京展示でのレインウェアブース>
9月下旬に開催された初回のワークショップからわずか2ヶ月というスピード開発でもここまで制作することが出来たことで、デザインプロセスの上流に障がいのある人を参画させることの重要性を再認識することが出来ました。ワークショップとデザインのフィードバックを繰り返すことで、関係者間の認識のズレを抑え、やり直しを防ぐことが出来たのです。つまり、利害関係者間の調整役/指揮者であるデザインリサーチャーが主導する「できること」に着目したものづくりから、「伝統工芸の新しい"担い手"としての障がい者」と「労働環境としての"伝統産業"」が見出されたと言えるのではないでしょうか。
障がいをプロダクトの「特長」として引き出すような仕組みを開発工程に導入することで、「何をつくるか」ではなく「どのようにつくるか」「なぜつくるのか」を再認識することが出来るのだろうと考えています。「福祉×ものづくり」が持つ意義をプロダクトに反映し、Good Job! な開発が今後も展開されることを期待しています。
<名古屋で開催されたセミナー中の様子>
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参考図書
インクルーシブデザイン: 社会の課題を解決する参加型デザイン
- 作者: ジュリアカセム,平井康之,塩瀬隆之,森下静香,水野大二郎,小島清樹,荒井利春,岡崎智美,梅田亜由美,小池禎,田邊友香,木下洋二郎,家成俊勝,桑原あきら
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久野染工場×Good Job!プロジェクトの取組みについて話してきました
本日は名古屋市新栄町にあるコミュニティ・カフェ パルルにて、運営者の森田恭平くんにお誘いいただき『久野染工場×Good Job!プロジェクトの取組み』についてお話させてもらいました。伝統工芸×障がい者就労の取り組みはすでに事例があるのですが、このプロジェクトで僕がデザインリサーチャーとして何をしてたのかを発表しています。
当初、Good Job!からプロジェクトへお誘いいただいた時は制作するプロダクトは未定で、伝統工芸と障害者就労支援からなにかできないかというものでした。伝統産業の後継者不足と障害者就労の少ない職場と低賃金という大きな課題があり、大きなテーマは、『愛知県の伝統産業に障がい者が参画できる働く場所をつくろう。』と設定されたのが2014年8月ごろでした。
まずデザインリサーチャーとして、両者の相互理解を促すワークショップの設計と強みを引き出すプロダクトを導き出すということが求められました。デザインワークショップの設計は、何ができるのか、どんな方法でできるのかを利用者+スタッフの関係から探るもので、内容を基本的な手ぬぐいの制作から徐々に負荷を上げ、制作する状況を観察していました。その結果から100を超える有松絞りの技法から利用者+スタッフの特徴に合ったものを選択し、次のワークショップにアレンジをしていきました。
ワークショップの裏では具体的にこのプロジェクtでは何を制作するのかを検討していました。染色とプリント、職人と障がい者、一点ものと大量生産など比較して対象を絞っていった所、アウトドア/ヒッピー/DIY層が発見され、いくつかの布ものから染色で柄が出しやすく縫製の少ないポンチョを選択しました。そこでテキスタイルデザイナーへと発注し、柄とパターンをWSの結果を反映しながら検討していいきました。どのようなプロダクト・ターゲットか方向を定め、テキスタイルデザイナーと染色業者間の調整を図る立場でした。
つまり、[福祉施設⇔染色工場⇔デザイナー]のファシリテーションとプラットホームの構築が求められたのです。ワークショップの結果をデザインに還元し、デザインを次のワークショップに反映する。今プロジェクトにおけるデザインリサーチャーの役割は、こうした業種を超えた対話を促すコミュニケーションの場を設計すること。ポンチョのデザインがコミュニケーションを誘発し、創造性を育む関係と環境が生まれたのではないかと考えています。
【『愛知県で伝統工芸の中に障害のある人が働く場所をつくりたい!』クラウドファンディング締め切り直前説明会】 | Facebook
話し手:浅野 翔
聴き手:森田恭平
日 時:2014年11月22日(土) 13−14時半
会 場:パルル parlwr(名古屋市名古屋市中区新栄2-2-19)
主 催:森田恭平
Good Job!プロジェクト展覧会
展覧会概要 | Good Job! 展 2014-2015
愛知県
2014年12月12日(金)~14日(日) 10:00〜20:00
国際デザインセンター・デザインギャラリー/ナディアパーク2Fアトリウム・イベントスペース
〒460-0008 愛知県名古屋市中区栄三丁目18番1号 ナディアパーク・デザインセンタービル
関連書籍
インクルーシブデザイン: 社会の課題を解決する参加型デザイン
- 作者: ジュリアカセム,平井康之,塩瀬隆之,森下静香,水野大二郎,小島清樹,荒井利春,岡崎智美,梅田亜由美,小池禎,田邊友香,木下洋二郎,家成俊勝,桑原あきら
- 出版社/メーカー: 学芸出版社
- 発売日: 2014/04/01
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