腰痛持ちはツライよ──見えにくい正義 vs 時代遅れの正義

15歳でぎっくり腰になってからというもの、季節の変わり目や疲労が溜まると腰痛が起きる。かれこれ15年以上の付き合いをしているにも関わらず、今だに突然訪れる腰痛には悩まさせられている。腰痛の兆しを身体が発しているが、忙しさにごまかされて脳が見落としてしまうのだ。去年は4週間は腰痛の再発で作業効率がガクッと落ちしてしまっていた。

 

腰痛が厄介なのは、一見して「腰痛である」とわからないことだろう。もちろん、腰を押さえながら歩いている様を見ればいいのだか、座っていたらほとんど普通の人と変わらない。こちらは脂汗を浮かべながら、早く時間が過ぎることを祈り続けているのだが…。ある瞬間が訪れるまで、不調に見えない不調な人。そんな状態だからだろう、電車内であからさまな差別を受けることになった。

 

連日の移動と迫る締め切りを前に、出張先のホテルで数週間ぶりの「兆し」を僕はキャッチしていた。軽いストレッチとチェックアウトを済ませ、雨上がりの路面に気をつけながら彦根駅へと向かった。連休の中日、新型コロナウイルスの影響で京都を訪れる観光が減ったとはいえ、特急車両の座席はほとんど埋まっていた。唯一空いていたのは「ボックス優先座席」のひとつ。腰痛持ち、ぎっくり腰もほぼ治りかけ、つまりはほぼケガ人だ、いいだろう。そう思っていたのは「腰痛を自覚した自分だけ」なのだとのちにわかるのだが。

 

腰を下ろし、スマホで調べ物をしていたところ、1組の老夫婦が入れ替わるように座っていた。次の駅でさらに高齢のおばあさんが隣に座る。そのあたりからだろうか、旦那さんの方がチラチラとこちらを見ていることに気がついた。目が合うと、一瞬間が開いて隣の奥さんへボソボソと話している。悲しいかな、僕にもハッキリと聞こえた「ここは優先座席だぞ、優先座席」と。彼の目には僕が「スマホをいじりながら高齢者が来たにも関わらず席を譲らない若者」と写ってるのだろう。分かるよ、腰痛ですって看板を抱えてないし、ずっとスマホいじってるし。目線を上げたらムスッと睨まれているので、腰痛だと伝えることが必要かなと思ったが、幸運にもその一言を聞いたのは降車駅の手前。調べてるものも途中だし、わざわざ伝えるのもめんどくせーやと、京都駅で降りようと歩き始めたようとしたところ。コツン、と足元に彼の靴が。あー、なんと足を引っ掛けようとされたんですね。これは、わからん。悪者である僕を成敗してやろうと考えたのでしょうか。これで転倒してより腰が痛めたらどうするつもりだったのかな。あからさまな「若者差別」を受けたのは初めてではありませんが、本当に気分が良くないものです。

 

彼には「優先座席=(高齢者のための)優先座席」というカッコ内の文字が強いのでしょう。実はこれはよくある誤解のひとつなんです。昭和48年、中央線に残っていた女性子供専用車両が廃止され、それにともなって新たに生まれた優先席。旧国鉄が高齢者向けの優先席を導入するにあたり、ゼロ系新幹線の普通席で使用された生地を転用したそうです。その座席がシルバーグレーだったことからシルバーシートと呼ばれ始め、いつのまにか「シルバー=白髪老人」、「シルバーシート=高齢者のための座席」、「優先座席=高齢者のための座席」と誤った認識が広がっていったそうです[*1]。今では優先座席は「お年寄りの方、お身体の不自由な方、妊婦の方、小さなお子様をお連れの方など、お席を必要とされるお客様」とJRおでかけネットには記載されています[*2]。

 

ケガ人に近いと自認する僕が優先座席に座る正義と、高齢者のためだけに席を譲れと振る舞う彼の正義。世界的にも優先座席は議論されているようですが、日本でもっと多様性への理解が深まり、寛容な社会となることを僕は望みます。

あぁ、腰が痛い…。

 

 

 

[*1] https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%25E5%2584%25AA%25E5%2585%2588%25E5%25B8%25AD

[*2] 優先座席の利用は、どのように案内していますか。 | FAQ | JRおでかけネット