絞り染め産業と環境負荷について考えたい

2009年の研究結果[*1]で淡水汚染の20%が染織産業によるものだと指摘されてはや10年が経とうとしている。綿花の生育や自然化学問わず染料の改良、あるいは資源の再利用など、それぞれのセクションがサーキュラーソサイエティ(循環型経済)の実現に向けた取り組みを始めている。とくに大きな資本を持ち、設備や新たな人材への投資が早い企業は、惑星レベルの問題解決に向けて責任を果たそうとしている。一方で、この問題をマーケットレベルに矮小化して捉え、単なる覇権争いの手段のひとつとして捉えている企業があるのもたしかだ。具体的な期間を指すわけではないが、サスティナブルなものづくりをどうやって実現すれば良いのだろうか。

 

有松は400年以上続く伝統工芸絞り染めの産地だ。知多から移住したものが持ち込んだ木綿を、他所から学んだ藍染を施したのが始まりだ。天然染色からはじまった絞り染めも、今ではさまざまな化学染料を用いるようになった。防染によって柄を生み出す染色技法のため、時間のかかる天然染料よりも短時間ではっきりと色が出る化学染料と絞り染めは相性がいいのだ。また伝統工芸の産地としては珍しい2次加工産地であることから、綿や麻といった天然繊維だけでなく、ウールや皮といった動物性のテキスタイル 、ポリエステルやナイロンなもどの化学繊維まで手広く加工をしている。特定の繊維だけを扱っていない有松において、化学染料の開発は産地の発展とも大きく関係していた。

 

そこで今、課題となるのが絞り染めと環境問題の関係だ。地形上、地下水が豊富とは言え、浸染は加工に大量の水を必要とする。たしかに産業規模を考えると繊維産業の中でも、有松・鳴海絞りが与える環境負荷は微々たるものだろう。環境問題に対する投資先として後回しにされるエリアなのは間違いない。ただ、日本遺産や重伝建地区に選定されるなど、地元の誇りが環境汚染のきっかけであるというのは随分と複雑な感情だ。染織の生産工程を見直しつつ、経済的にも環境的にも持続可能なやり方を目指せないだろうか。

 

そのためにいくつかの方法がある。まずなにより今の状況を、環境アセスメントの観点から評価することだろう。どれだけの環境負荷が起きているのか、誰も適切に捉えられていないのが現実だ。その上で、川上の生産工程や素材の見直し、あるいは素材の再利用を積極的におこなう仕組みづくりをするのがいいのではないか。環境アセスメント評価は具体的な数字は分からないだろうが、仮説的な計算式が分かるだけでもまずは十分なはず。大学への強力打診が必要になるかもしれない。素材や製品の再利用は、リサイクルセンターへ分類と収集を依頼することから始められるだろう。まずは綿100%の素材の衣服などを集めたり、再生コットンの商品を積極的に使うのもアリだ。再生コットンと廃棄染料(いろいろな色が混ざって黒くなったやつ)で商品をつくれないだろうか。商品としての流通には時間がかかるかもしれないが、まずは体験やツアー事業でこの価値を共有できるように挑戦してみたい。

 

 

[*1] Raybin, A (2009), Water pollution and textiles industry as cited in The Sustainable Academy (SFA) and The Global Leadership Award in Sustainable Apparel (GLASA) (2015), The State of the Apparel Sector – 2015 Special Report: Water