有松絞り×デジタルファブリケーション・ワークショップに向けて #portal_.

この4月から動き出したARIMATSU PORTAL; PROJECTでは、ついに有松から出て外部でのワークショップ実現に向けて動き出しました。9月13日に名古屋のMaker Lab Nagoyaで、9月20日には大阪のFablab Kitakagayaで行います。詳しくは、下記のFbページをご覧ください。



今回のワークショップではなぜ、有松絞りの版木を制作するのか。有松絞りの技法は、その工程から「括る」「挟む」「縫う」に分類されます。「挟む」という技法には、乾いた状態で布を挟む雪花絞りや濡れた状態で布を挟む板締め絞りなどがあるのですが、PORTAl; SALON #01 で登壇してくださったまり木綿の伊藤さんが仰っていたように、工程が少ないので生産性が高くポップな柄ができることが特徴です。他の技法に比べて大味で、繊細さに欠けると評されることもありますが、雪華模様、麻の葉模様をあしらった浴衣は涼しげで可愛らしい印象です。
以前、雪花絞りで手ぬぐいを制作した過去記事はこちら。

『くそあつい』ので、シルクスクリーン×糊防染×有松絞り 手ぬぐい作ってみた #shibori. - ケンチククラブ

今回ワークショップで行なう板締め絞りでは、柄を生み出す要素として、1)布の折りたたみ方、2)板の形状、3)染色箇所が挙げられます。1)布の折りたたみ方と3)染色箇所は、無数の柄を生み出せるので非常に楽しいのですが、それらを操作してイメージに近い柄を生成することが非常に難しいのです。適当に折りたたんだ布の部分に染色したところから全体のパターンを想像するのは、なかなか脳みそを使います。。そうしたシュミレーションの難しさを乗り越えるべく、「染みるんです」というソフトが研究開発されていますが、開発から2年経ちますが普及には至っていないようです。一方で、2)板の形状は、ダイレクトに染色に影響するため、先述した2項目に比べては予想がつきやすくとっかかりやすいと考えました。染色具合を予想に近づけるには、染色時間や染料の配合などを検討する必要がありますが、線状に近づくことが出来るでしょう。またこれまでは板形状の作りやすさやコストから、挟むための板は丸・三角・四角ばかりでしたが、現在は、レーザー加工機の普及によって複雑な形をいくつもつくることが可能となりました。そのため、今回では板の形状に焦点をあてたワークショップ開催としています。

そこで今回は、a)版木をカットするためのデータをつくる、b)版木をつくる、c)版木から手ぬぐいを染色する、d)フィードバックを記録するという工程で行います。従来の手ぬぐい染色ワークショップでは、偶然が生み出す可愛い色や柄を楽しむことが目的で、よりクオリティの高いものを続けて制作することやかわいい柄を模倣するような制作が目的とされることはほとんどなかったのではないでしょうか。これでは、クローズドなものづくりコミュニティでの技術継承のみとなり、コミュニティの縮小によって継続が難しくなります。伝統が衰退していく一端を見ることができますね。。

私たちの生活で目に見えるものは、プロダクトの手ぬぐいだけでしょう。手ぬぐいをつくるためのプロダクトと、つまり、メタ・プロダクトとして、版木が存在しています。今回のワークショップでは、その版木を制作するための、メタ・メタプロダクトとしてレーザー加工機のカットデータが存在します。「ものをつくるための道具をつくる」ことで、「ものをつくる」というオープン・カルチャーの思想に則っています。これによって、手ぬぐいは手に入れられなくても版木があれば手ぬぐいを制作して手に入れることができる。版木が手元になくてもカットデータをダウンロードし、版木を制作して手ぬぐいを手に入れることができる。というようなつながりが生まれ、より広いものづくりコミュニティが醸成していくのではないかなと思います。これもまた伝統工芸における技術継承の1つの方法ではないかと考えています。
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実際に、以前製作した板締め絞りのカットデータは世界中の何処かで2014年9月現在、約100ダウンロードされ、どこかで同じような手ぬぐいが制作されているのでろうと思います。今度のワークショップでは、このデータのアップロードを持って終了となるので、また沢山の人の制作を促すのかもしれません。非常に楽しみです。

板締め絞りとレーザーカッター #shibori. #portal_ - ケンチククラブ


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  • 発売日: 2013/08/26
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FabLife ―デジタルファブリケーションから生まれる「つくりかたの未来」 (Make: Japan Books)

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小豆島建築ミーティング vol.2を終えて

2014年8月22日に小豆島、Umaki Campで開催された小豆島建築ミーティング vol.2に登壇者として参加してきました。登壇者には、宮本佳明さん、家成俊勝さん、藤村龍至さんほか、第一線で活躍される建築家の方々ばかりで非常に濃密で、刺激的な時間となりました。浜松でUmaki Campを議論した浜松建築ミーティングに続き、今回も末席に加えていただきまして、本当にありがとうございます。

今回の議論の主題が『建築と教育』ということは、諸事情により、前日のジャンボフェリーで聞かされたのですが(笑)、藤村さんのモデレーションにより、「教育」をメタファーに議論が広がっていきました。議論の中心に上がったのは『マレビトとしての建築家/強い技術・弱い技術/継続する仕組み』でした。僕自身は、マレビトという建築家が旅立ってしまっても建築は独立して強度を持ち続けるのかということよりも、dot architectsから小豆島町地域おこし協力隊・向井くんへ、向井くんから利用する地域の人たちへとマレビトの主体が広がりつつあるエコシステムの方に興味が向きました。多様化する社会の中で生活する私たちは目に見えない異文化をも持ちえているので、近しい人からも新たな発見と刺激を受けます。ただし、それが表面化しないだけであって、交流しないだけでなんだと。

瀬戸内国際芸術祭からUmaki Campが生まれ、そこで活動する小豆島町地域おこし協力隊が立ち上がる。ここから小豆島は何をフィードバックしていくことが出来るのでしょうか。塩田町長が仰られていたように行政区分で指し示せないUmaki Campの活動は、今後、どうなっていくのでしょうか。予算300万円(+アルファ)でが出来る「弱い技術」でつくられたこの建築は、行政のような「強い仕組み」ではなく、アートプログラムのような「弱い仕組み」によって交流が生まれています。今後の生存戦略もとい、持続可能なUmaki Campとなるためには、制度設計が進み、弱い仕組みが強い仕組みになる「サービス化」を進めることで継続的な利用に繋げるのか、「設備補充」によって強い技術が利用できる交流場所となるのか。前者がHUBで後者がFablabのようなイメージを持っています。
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vol.1では、Umaki Campとはいったい何なのか。vol.2では、Umaki Campの独立可能性について議論されたのではないでしょうか。家成さんから「建築は開いた」に続き、「建築はウィンクした」という宣言があったように、まだまだ半開きの状態であることがわかりました。社会実験場で醸成されていく経験を定義付けて形式化することは時間のかかることですし、荒々しさを失う作業かもしれません。一方で、こうした環境の設計から、社会の深層をもう一度表面化し、議論することは、建築やデザインの新たな領域を開いていくきっかけになりました。Umaki Campのような小規模多機能施設が持続する仕組みについて、今後も議論していくことができればなと思います。また、vol.3があればぜひ参加したいです。

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板締め絞りとレーザーカッター #shibori. #portal_

二枚の図形をillustratorで作り、Maker Lab Nagoya
Maker Lab Nagoya - メイカーラボ名古屋レーザー加工機で切出し。手ぬぐいの端材で染の実験。カットラインはThingiverseで公開しています→
Cut line of Wooden pieces for Shibori, Tie Dye by ArimatsuPP - Thingiverse


http://instagram.com/p/rd-WhuKe2i/
ドクロ交互パターン ー ウェット
版木を万力でゆるめに締め、一度、水の中へ。全体をきちんと濡らしてから青色のスレン染料へ約1.5分。

http://instagram.com/p/rd-Xu6qe2k/
クロスパターン ー ドライ
乾いた状態できつめに版木を万力で締め、さっと5秒ほどで同染料に。

水でしっかりゆすぎ、脱水機にかけるとこの状態。
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ウェットのほうが長くつけているので割とくっきり出ていますね。画像は少しコントラストを上げているのですが、それでもウェット状態で染色しているので畳み込まれた中のほうが薄くなっていることが分かります。薄くなることを見通して、ドクロのパターンを選んだのですがもう少し綺麗に出たらよかったかも。ほんでもって出来上がった後に、90度向きを変えたほうが良かったなと気が付きました。全体を染めすぎると薄くなりすぎるので、畳み込む回数を減らしたほうが良いのかなーともうので、また実験してみましょう。

続いてドライの方は、従来の雪花絞りっぽくなってしまいました。ドライで染色しているので、しっかり全体が染まっていますね。ドライで染色したので予想通りエッジがなくなってしまっていますが、ウェットにしたらエッジがもう少し出るのでしょう。ただ、こうした柄は板締め絞りには向かないのではないかなと思います。具象的な図柄を選ぶならば、これまでの伝統的な図柄にならないほうが面白いのかもしれませんね。板締め絞りをドライでやる場合、伝統的な雪花絞りなどを抽象的な版木でつくってみると思わぬ柄が生まれるかもしれませんね。ハンドドローイングとレーザーカッターは相性が良いので、実験してみてもいいでしょう。

分かったこと
・ウェットは畳みすぎると色がかすれ過ぎるので、調整が必要
・ドライは染料が染み込みすぎるので、アウトラインが消えてしまう

次はこうしたい
・今回は手ぬぐい幅(45cm)を四つ折りだったので、六折りの小さなパターンでつくりたい
・ハンドドローイングの版木で雪花絞りをつくってみよう

追記
二回目をやってみた。今回は挟む布を少なくし、染料を濃くしました。
http://instagram.com/p/roUXTWqewK/
Instagram


関連記事
『くそあつい』ので、シルクスクリーン×糊防染×有松絞り 手ぬぐい作ってみた #shibori. - ケンチククラブ
http://pnch.hatenablog.com/entry/2014/07/23/183624

『くそあつい』ので、シルクスクリーン×糊防染×有松絞り 手ぬぐい作ってみた #shibori.

http://instagram.com/p/qyXHLPKe0Q/
[FxxKIN' HOT くそあつい 西瓜]
 暑い。京都にいた時も暑かったけれど、やっぱり名古屋も蒸し暑い。Macbook Proも熱くて、冷却台なんてないかのように熱い。壊れそうな気がしてすごく心配だけれど、僕が働くこの場所には空調設備は小さなサーキュレーターひとつしかない。暑い、熱い。

 やり場のない思いをぶつけることが出来るのは、目の前にある大量の布だけだ。社内で進むプロジェクトの実験も兼ねて、雪花絞りと板締め絞りを作ってみた。手ぬぐいの規定サイズより少し小さいのだけれど、端切れなので仕方ない。まず、Illustratorで『FUCKIN' HOT くそあつい』のシルクスクリーン版を制作(前回のシルクスクリーン習作)。時短のために目測でセンター出し、場所決め、白インクで刷り出しを2本に行なう。続いて、下図のような丸を2つ重ねた図形の版を製作。ここでは、インクではなく、洗濯のりを使って『FUCKIN' HOT くそあつい』の上に図を刷り出す。ノリとインクを乾かしている間に紗を洗いましょう。この時期は乾くのが早いので、目が詰まりやすいですね、、
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[実験的に2つの図柄を使いました]

http://instagram.com/p/qyeHF6Ke58/
[シルクの版はこういう感じ]

 乾いたら次は染色です。今回はどちらも四つ折りです。一つ目は『雪花絞り』という技法を用いたもの。下図のように両端を余らせるように三角形のジャバラに折りたたみ、両サイドを三角形の板枠で挟み、万力で緩めに固定します。どぼんと両サイドを赤色、緑色の染料につけます。あとは開いて水の中でゆすぐと西瓜のような組み合わせの物ができます。シルクスクリーンにどれだけ染料が乗るのか試したのですが、緑色のほうが乗ってしまいました。つけていた時間は10秒程度です。ソーピングで表面を洗えば綺麗になるのでしょうか…。
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 続いて二本目は、割り箸を使った板締め絞り。下図のように今度は両端を残しつつ、正方形にパキパキと追っていき、折りたたんだほうを割り箸で挟み、輪ゴムでとめます。むらさき色の染料に30秒くらい浸けてまぜまぜします。すると、写真のような手ぬぐいが出来上がります。今回は、洗濯のりで防戦したのですが、温めた染料に溶け出してしまい、防染箇所の周りも染まりが甘い状態になってしまいました。ただ、これが付きを隠す雲のように見えたのでタイトル浸けにしました。
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http://instagram.com/p/qyXrenqe0p/
[FUCKIN' HOT くそあつい 朧月夜]

http://instagram.com/p/qyd_m2qe51/
糊防染したところをアップにしたのがこちらです。元の版のようにくっきりと出ているのですが、ぼんやりその周囲が問題ですね。。これは、ノリの濃度を変更したら改善するのか、それともこの箇所を最後に入れるのかというところで解決できるのかな。シルクスクリーンの技術を応用することで、表現の幅でそうですね。

良いものへの触れ方、向かい方

日中に流れてきた記事では、若者のハイブランド離れを嘆く声が聞こえてきた。服飾専門学校に通う学生がファストファッションを多く購入しているという数字と、それを説明かのように学生の懐事情についても触れられている。文末には、収入が少なくなりハイブランドを購入することができない、プライドもない若者というレッテル貼りと若者にものの価値を伝えられていないアラフォー世代の嘆き声で締められていた。⚪︎⚪︎離れを嘆く声はそこら中で聞こえている。若者に見る目がない、可哀想な世代、などと批判されても、全くそのことには批評がないのでつまらない。この価値観にはむしろ、これまでにないものづくりへの意欲を僕は感じる。

服飾専門学生の「よく買うブランド」ランキングに見る危機 | http://t.co/e75rNpfYJk http://t.co/ae1iEyPBP1

この問題は何も「良い物に触れずに育ってきたから、良い物がわからない」ということではないのではないだろうか。同じように「良い建築に触れずに育ってきたから、良い建築がわからない」というような批判も少なくないが、ハイブランド=いいモノ、著名建築家の建築=良い建築という図式が成り立っていた社会背景が今は移り変わっているということに過ぎない。

ファッションではリメイク・ユザラー、建築ではリノベーションが盛り上がっているように、既存製品や空間を改編し、私らしさを作り上げるDIY文化が日本でも進行しているということ。消費から改変へと意識が移ろうなかでプロシューマーが発生し、所有から共有へと移ろうなかでキュレーション能力が高まっている。よって、ハイブランドのプロダクト、有名建築家の建築というのは、コスト・改変性・流動性を考えると足かせとなることに気がついていのではないか。

「良い物がわからない」から購入しないのではなく、「良い物」郡を構築していく時に購入はひとつの方法でしかなく、むしろ、より効果的に「良さ」へ近づく方法として、制作や選択という手段を獲得したと見ることができるのではないだろうか。ただし、「良さ」という軸を作るためにハイブランドや著名な建築は、一つの判断材料と成りうるので、必ずしも切り離すことはできないが、それだけに固執する必要はない。対立だけでなく、両者の組み合わせからこれからの「良さ」が立ち現れることに期待したい。