都市計画に関連する法案と事業から「ビジョン」についてのメモ

以下、自分の中での整理に向けて、Twで下書き書いていたので細切れ感がありますが、忘れないように。

 

都市計画法(1968)では将来よりも都市機能の整備が前面に出ていて、民都法(1984)で民間主導のプロジェクトが生まれ、都市計画法改定(1992)では住民参加による都市マスタープランがおこり、都市政策ビジョン(仮称)(1997)では成熟社会の都市間連携がテーマになるも計画主義な様子。

 

転換点は、都市再生措置特別法(2002)や景観法(2004)で地域の主体性がより求められるようになったことか。その上で、住生活基本法(2006)によって良好な居住環境の形成のために地域文化や環境の調和が求められるようになり、民間主体のエリアマネジメント、都市再生整備推進法人へとつながる。

 

立地適正化計画制度を踏まえた都市再生特別措置法改正(2014)、都市利便増進協定(2011)や民間まちづくり活動促進事業の普及啓発事業(2014)によって、まちづくり会社NPOなどによるワークショップや社会実験が広がり、住民主体のにぎわいづくりや将来像の共有に向けた実践がおこなわれる。

 

コロナ禍での経済活動も後押しした公共空間の利活用を踏まえて、官民連携まちなか再生推進事業(2021)では、エリアプラットフォームの構築やエリアの将来像を明確にした、「未来ビジョンの策定」が明確に位置付けられている。
>ビジュアルによる将来像の共有、将来像の実現に向けたロードマップなど

 

以上を振り返ると、「成長する都市の整備を背景としたトップダウンによる都市計画→成熟を迎えた都市の「地域らしさ」を保全する主体者に対する参加制度→縮退する都市の将来像づくりと持続可能な都市経営に向けた官民連携」となっているようようだ。

 

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「将来像」から「未来ビジョン」へと呼称が変わるのは、目標が固定化された「像」の達成という管理視点から、観察者それぞれによる抽象的な「画」の描写という創造的で多様な視点へと転換する欲望の現れだろうか。未来ビジョンで多様性を内包しようとしているのは分かるが、どのように起こりうる未来を想像するのか、社会福祉からこぼれる人をどこまで守るのかはよくわからない。きれいな絵空事とならないような仕組みが必要だろうということはなんとなくイメージが掴めた。

 

 

参考:

国土交通省都市政策のこれまでの歩み https://www.mlit.go.jp/common/000017310.pdf

第一回 新たな都市マネジメント小委員会 配布資料 https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/toshi01_sg_000119.html

国土交通省、エリアマネジメント推進マニュアル https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_tk2_000068.html

新たな担い手による地域管理のあり方検討委員会、新たな担い手による地域管理のあり方について(2007)https://www.mlit.go.jp/common/001206703.pdf

国土交通省、「官民連携まちなか再生推進事業」について(2021)https://www.mlit.go.jp/toshi/file/system/210630_%E6%A6%82%E8%A6%81%E8%AA%AC%E6%98%8E%E8%B3%87%E6%96%99.pdf

 

 

イシュー型の卒業設計展示または建設プロジェクト はあり得るのか

2011年に開催されたKyoto x Diploma '11の実行委員会に携わり、講評者ごとの評価軸を明確にした議論のあり方を検討してからはや10年。逆に審査員としての参加を打診される立場になりました。非常にうれしく二つ返事で快諾をしたかったのですが、考えるところがありすぐに回答することができませんでした。この10年間で社会的な状況や建築に携わる環境が変わり「大量の作品から短時間で」選ぶ現在の建築コンペ・プロポーザルや卒業設計展示について、短時間で理解できる一面的な情報に偏った議論にならざるを得ないということから批判的な立場をとっています。それは企業や行政などとの業務、あるいはまちづくりのなかで定性的な調査や未来志向のビジョンをデザインリサーチャーという職種も大きく影響しています。フィールドワークやインタビュー、ワークショップを通じた異なる利害関係者らとの対話などを通じてデザインプロセスへの介入し、よりよい未来の創造に向けた共創が主たるフィールドであることから、昨今の卒業制作展や建築コンペ・プロポーザルは異なる専門家の参加があるとはいえ、真逆のプロセスをとっているように見えるからです。

 

多様な評価の軸というキーワードを掲げておこなったDxK'11も同様の問題意識がありましたが、当時は立場や専門性の異なる建築家や研究者を講評者や翌日に開催した講演会の登壇者としてお招きするにとどまっていました。それは社会に出ていないことや、現在のように建築を通じた社会イノベーションの事例を知らない学生で運営されていたから、想像の限界がそこにあったのだと思います。しかし、現在はどうでしょうか。SDGsを筆頭にソーシャルサスティナビリティと建築の関係はより強くなり、まちづくりといった地域ビジョンの策定やJVが必須となる建築プロポーザルなど、社会課題に対して集団の創造力が必要とされ場面が増えてきているように感じます。学生とはいえ研究室のプロジェクトや見聞きするニュースからもその変化を感じられるのではないでしょうか。さらに日本独自の課題である超少子高齢化社会かつ労働生産人口の縮小を背景とした、ITやロボティクスなどデジタル領域などを中心に「建築イノベーション」の気運や、地球規模でのエネルギーの枯渇や都心部への人口集中を受け社会福祉など新たな公共を巡る議論への注目が高まっていることも後押しをしているように思います。

 

昨夜、@atu4 さんと @chaki_1680 さんとともに、twitterのスペースでおこなった「イシュー型の卒制/建設プロジェクトについて」をめぐる議論では、こうした背景をもとに離散型の卒業設計展の限界、今だ男性優位な環境が続く建築・建設業界への批判、そして建設プロジェクトにおけるチームビルディングなどに話題が広がりました。短時間での議論や短期間での検討は、共通の理解を得やすい文脈に従った議論になってしまう。すなわち、業務を担う男性とその世代の価値観に収束してしまっているということが課題に上がったのです。他者への想像力を働かす機会が失われた環境では、その文脈に則った評価がなされてしまうでしょう。すでに「当たり前」だとなっている価値観に従うだけでは、ニュー・ノーマルを構築する気概は失われてしまっています。

 

多様性を孕むデザインプロセスとして、ベストライブラリー2019で受賞をしたフィンランドに建設されたヘルシンキ中央図書館『Oodi』を紹介しました。2008年におこなわれた大規模なアンケート調査、施設スタッフらによるグループワーク、2012年以後には基本コンセプトをもとに各専門家や市民とのワークショップなどをおこない、市民の要望と図書館に求められる役割を整理しながら、国家や行政にとってどのような価値を生み出す場なのかを検討を進めたとプロジェクトを振り返っています[*1]。そこではファブスペースやプログラミング教育の提供など、スタートアップ創出を目指すフィンランドの本気度が見て取れます。一部、北極圏に位置するフィンランドでは、乏しい資源のなかで生き残るための重要な国家戦略のひとつとして、頭脳労働によって価値を生み出す「デザインやデジタル産業」などが位置付けられています[*2]。僕が留学していた当時も、教育や福祉に注力しているのは530万人程度の人口では国そのものが失われてしまうかもしれないという、強い危機意識があったからだったと記憶しています。国家レベルでのイシューをもとに公共建築のデザインプロセスを刷新し、国民の創造的な活動を支援する試みは、時間がかかりすぎているという批判もありますが先進的な事例として今後も評価されるでしょう。

 

こうした社会課題の解決を目的としたデザインのあり方は、2000年代のソーシャルデザインなどで台頭し始め、それ以後はひとつの組織や国家の取り組みだけでは解決し得ない気候変動や移民問題など地球規模の課題を前に議論が本格化しているようです。建築領域では 『Future Architecture Platform』や『Open Architecture Collaborative – Social Design for Social Justice』、デザイン領域では『WHAT DESIGN CAN DO | TOKYO』やRSAがおこなう『RSA Student Design Awards 20-21』などの取り組みがあります。日本国内でも兼ねてから社会課題とデザインによる解決を目指すissue+designや、最近ではオランダの活動に共感した日本メンバーが新たにWHAT DESIGN CAN DO | TOKYOを始動し、NOVUS FUTURE DESIGN AWARD(ノウスフューチャーデザインアワード)WHAT DESIGN CAN DO | TOKYOなど、特定の社会課題をもとにしたアワード設立などの新しい試みが始まっています。これまでの作品オリエンテッドな卒業設計展だけでなく、社会課題をもとにした卒業設計があってもよいのではないかというのが僕の提案です。イシューの理解として専門家を招いた講演会や報告書のブリーフィングを共通におこなうことで、課題解決の手法を軸とした評価のあり方をともに議論することができるだろうと期待しています。

 

安宅和人さんの『イシューからはじめよ』に提示されていた[課題の質×解決の質]ダイアグラムをもとに考えると、イシュー型は課題の質を最低限担保し、その上で解の質をもとにその案を評価することができるのではないかと考えています。そこにさまざまな専門家による批評も加わり、今までにない解決法の有り様を議論できる環境が生まれると僕は信じたいです。このプロセスを過激に進めるのが『テラフォーミング』を2020-2022年の教育プログラムに掲げるStrelka Instituteのような教育組織でしょう。彼らは100名規模の専門家を招き、地球外の資源を頼りに違う惑星での生活を支える建築を考えてみようとするのではなく、「地球がこれまでのように(またはこれまでとは異なるあり方で)生命の生存可能な惑星であり続けるために地球をテラフォーミング[*2]」するならば、どのような建築や都市があり得るのか思考実験する非常に挑戦的な試みを始めています。こうしたリサーチをもとに課題を理解し、可能性を引き出した建築のデザインやプロジェクトを立ち上げてみる「イシュー型」の建設プロジェクトは、不確実な時代だからこそ重要な取り組みであると私は彼らの実践を評価したいと思います。

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先鋭的な課題設定や専門家を交えた調査や議論は、目的や課題意識を共有する個人や組織のコンソーシアムとプロジェクト・ディレクターをしっかりと見極めることが重要だろうと考えています。ラボ・ドリブンなアプローチに思えるかもしれませんが、参加のあり方と思索する目的を位置づけなおすことで、社会実装に向けた展開も期待できるのではないでしょうか。まだその可能性を勝手に考え始めているだけなので、引き続き議論を続けていけたらと思います。まずは、テーマ設定と専門家との講演、数十名でのオンライン展覧会や講評会といった活動を小さく勝手に始められないかなと夢想しています。

 

 

21/08/18 22:51 追記

@atsu4さんが感想をツリーで投稿されていたので投稿を埋め込みました。

 

 

[*1] 詳しくはOodiのMediumにある記事「Oodi as textbook case of service design - Oodi」をご覧ください

[*2] (PDF)フィンランド経済の概要 - 在フィンランド日本国大使館経済班 https://www.fi.emb-japan.go.jp/files/100093583.pdf

[*3] 2020年度に検討されたプロジェクトは映像作品として提示されている。新しい法律や制度設計やデザイン手法も含めて提示されているのが興味深い The Terraforming 2021 Program — Research & Publications

食と持続可能性を家庭菜園から考える

ずっと興味のあった家庭菜園を今年の5月から始めています。まだほとんどまともに収穫はできていないけれど、日々成長するサニーレタスと向き合いながら天候について考えることもしばしば。本当にカンカン照りの太陽はあっという間に水を蒸発させるし、台風はあっという間に葉物をダメにしてしまう。

 

僕が始めたのはアクアポニックスと呼ばれる農法。簡単に説明をすると魚の飼育と水耕栽培を混ぜ合わせたようなものです。魚のフンが肥料となって野菜が育ち、土壌が濾過した水を水槽に返していく。環境循環型の農法として、ハワイなど世界中でその実践と研究が進んでいるそうです。僕はというと小さな水槽と数匹の金魚、そして栽培用のケースが2つという、とても小さなスペースを畑にしています。

 

食の生産にはもともと興味があったのですが、さらに興味を持つようになったのはエネルギー枯渇の問題に触れたから。すでに生態系が供給できる資源量と私たちが生活の中で消費する資源量は圧倒的に需要が多く、2021時点では日本人がこれまでの生活をおこなうならば日本7.8個分の資源がないとままならないとWWFは発表しています[*1]。スーパーで買っている農作物も生産流通の段階でさまざまなエネルギーを使用して、私たちの食卓に届いています。家庭からのエネルギー消費が15%程度とされるなかで、小さなアクションをまずは起こしてみようと思ったのです。

 

そこで始めたのが垂直栽培式のアクアポニックスです。面積は45×60cm程度で高さはスチールラック200cmほどです。狭い水槽スペースですが元気に泳ぐ金魚がかわいくて、毎日朝起きるとベランダに出るようになりました。ようやく栽培エリアにバクテリアも定着してきたのか、サニーレタスとモロヘイヤが元気に育ちつつあります。国土も住宅面積も狭い日本ではどんな取り組みが可能なのか、ベランダ菜園で自ら考えてみたいと思います。

 

 

[*1] https://www.wwf.or.jp/activities/opinion/4687.html

 

名古屋に戻ってあっという間に1年

昨年の4月末、3年勤めた母校の職員を緊急事態宣言のどさくさで退職し、大学閉鎖のタイミングで引っ越しをして名古屋に戻ってはや1年。京都にいたときはコロナだけでなく結婚や法人立ち上げなどさまざまなことがあったので、名古屋に戻ったから元通りフリーランスになりましたと言うわけではなくいろんなことがありました。

 

名古屋に戻ってから携わるはずのプロジェクトは2-3件ほどポンポンと延期や中止の連絡があり、「こりゃ参ったね…」と経済的、精神的に追い詰められることもありました。それでもなんとかやってこれたのは名古屋で長い付き合いのある友人が声かけてくれた、宿泊施設のコンセプトや設計要項を考えるプロジェクトや、大学の先輩からインナーブランディングに関わる社内メディア立ち上げのお誘いでした。宿泊施設は『セブンストーリーズ』と名付けられ、7名の建築家が愛知県の7産地からインスピレーションを得て設計した7部屋のデザインが特徴です。名古屋に戻る直前から関わり始め、愛知の魅力を発信する機会に携わることができたのは本当にうれしいことでした。松田くんは有松絞りにインスピレーションを得た部屋をデザインしており、有松中の人に教えたいくらいです笑

 

個人だけではここまで有松に関わることがなかったと思いますが、2018年8月に武馬さんや山上さんと活動を始めている『ありまつ中心家守会社』のおかげだなと思う場面が多々あります。2014年に松田くんや武村さんと始めたARIMATSU PORTAL; PROJECTのゲリラ的な活動や志しが、アリマツーケットアリマツアーなど有松の方とともにつくっていくありまつ家守の活動に一部引き継がれています。それは我々が携わる日本遺産事業、まちづくりワークショップ「プレー!アリマツ」やカメラプロジェクト「アリコロカメラ」でも同じです。ひと回り以上も年上のみなさんに助けられながら、好き勝手やらさせていただいているなと実感します。

 

こうした活動をやりっぱなしにしないために、年明けから論文を読むことを習慣にしようとしています。自宅や職場などではどうしても家事や作業に追われてしまうので、喫茶店で読むクセをつけるようにしてようやく馴染んできました。まだ週に2−3時間程度しか時間取れないのですが、有松の活動を論文としてまとめられるようにしたいです。研究活動はデザインリサーチャーと名乗る以上、「最低限やらないといけないこと」なのではないかとずっとモヤモヤしていました。2年目もコロナ禍で不確実な日々を過ごすことでしょうが、活動にきちんと向き合っていきたいと思います。がんばりまーす!

IDENTITY Academy vol.2 「地域の企業が未来を見据えたビジネスの種まきをするには」に登壇しました

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IDENTITY Academy vol.2 地域の企業が未来を見据えたビジネスの種まきをするには

IDENTITYが主催するセミナーに登壇し、新規事業開発に向けた教育プログラムについてお話いたしました。

ide-academy-04.peatix.com



中西金属工業で新規事業開発のための特任組織を任される長﨑さんからは、製造業ならではの組織文化を乗り越えるために、内部のニーズとシーズにあえて頼らず、外部リソースをもとに新しい製品をローンチし、グロースしようとしているのかお話されていました。

名古屋のバスケチーム、ドルフィンズマーケティングを担当される園原さんは、カスタマージャーニーマップなどを使いながら顧客が離れてしまう瞬間をどう避けることができるのか検討し、より楽しんでもらえるための施策につなげようとしているのかという話がありました。

異なる内容でしたが組織内部の視点から語られる事業開発に僕は触れることが少ないので、組織文化との衝突や、ユーザーリサーチなどの不理解などを乗り越えた話は頭の下る思いで聞いていました。苦労話に回収するだけでなく、きちんと成果を達成しているのが本当にすばらしいです。

わたしはIDENTITYさんと取り組んだ、新規事業開発のための教育プログラムについてお話しました。スムーズにプロジェクトを進められるために必要な基本スキルや思考のフレームワーク、プロジェクトへ臨む態度、そして、会社理念をどのように解釈して新規事業開発をおこなうのか。そういうことを考えるためのスターターキット的なプログラム内容になっています。スライド資料を公開していますので、興味のある方はぜひご覧ください。


こうした取り組みや成果が少しでも東海圏の経営層にも届き、未来をつくる事業開発のきっかけになれば幸いです。


登壇資料はこちらから:
docs.google.com